捕った魚を選別する小型船の漁業者たち=2日、いわき市・勿来漁港 |
東京電力福島第1原発事故で放出された放射性物質は、事故から4年半が経過しようとする現在も、海、そして河川や湖沼の漁業に影を落としている。漁業者は出荷制限に苦しみ、研究者らは汚染メカニズムの解明に奔走している。一方、底引き網漁の操業海域が拡大されるなど本格的な漁の再開に向け、明るい話題も生まれている。漁業の現状と課題を追った。
底引き網漁による試験操業の操業範囲が今月から、これまでの 「水深120メートルより深い海域」から、「水深90メートルより深い海域」に拡大された。いわきでは、これまで操業に参加できなかった10トン未満の小型船14隻が新たに操業できるようになり、漁業の本格復興へ一歩前進した。
勿来、小名浜、沼ノ内、久之浜の4漁港から2日、計14隻の小型船が漁に出た。それぞれカナガシラ、アカムツなど計1.2トンを水揚げした。今泉浩一さん(51)は勿来漁港から出港した。震災前は水深50メートルぐらいで漁をしていた今泉さんにとって、水深90メートルの海域でも、震災前の海域よりかなり沖側での漁になった。「久しぶりの操業に胸が高ぶった」と、胸の内を明かした一方で「どれだけ捕れるか不安もあった」と話す。
県漁連などによると、水深90メートルは、10トン未満の小型船が操業できる限界の海域。10トン未満の小型船が装備しているロープや網では海底への長さが足りず、90メートル以上の水深に対応できないという。また、90メートルより浅い海域で底引き網漁を行うと、国から出荷制限がかかっているカレイやヒラメ、アナゴ類が網にかかり、操業に無駄が多くなるという。底引き網漁は秋から冬にかけ、ヤナギガレイやアンコウなどの最盛期を迎える。今泉さんは「先の見えない状況だが、本格操業に向け、船を動かしておく必要もある。(漁が)いい状況になっていくのを待ちたい」と本格的な漁の再開に期待を寄せていた。
海域拡大"一筋の光" 「試験操業」64種に
本県沖は「常磐もの」と呼ばれる良質の魚介類を育む豊かな漁場だったが、本格的な漁を再開するめどは立っておらず、試験操業による漁業再生への模索が続いている。2012(平成24)年6月、相馬双葉漁協が試験操業に乗り出した当初の対象魚介類はタコなど3種類だった。試験操業と並行して魚介類の放射性物質検査を重ね、安全性が確認できた魚介類を試験操業の対象に追加した。今年7月にはいわき市漁協が事故後初めてウニの試験操業を始めるなど、対象魚介類は64種まで増えた。しかし、本県主力のヒラメやカレイ類などいまだ29種が出荷停止となっている。
県の放射性物質検査で昨年度、食品の基準値1キロ当たり100ベクレルを超えた海産物は8726点のうち48点で全体の0.6%。99%以上が基準値未満だ。本年度はすべて基準値未満で、県漁連は対象魚介類と水揚げ量の拡大を目指すが、漁の回数や海域が限定され、水揚げ量が伸び悩んでいる。
第1原発の井戸からくみ上げた汚染地下水を浄化し海に放出する「サブドレン計画」を県漁連が受け入れ、今月3日に東電がくみ上げを開始した。東電は同計画始動に伴い、海への汚染地下水の流出量を減らす「海側遮水壁」を10月中にも完成させる見通し。相双漁協の富熊(富岡町)、請戸(浪江町)両地区は、主力漁場とする第1原発から20キロ圏内で段階的に試験操業できるよう求めており、海側遮水壁で試験操業の海域がさらに拡大される可能性も出ている。