いわき市南部、中岡町の県道20号沿いの住宅街にたたずむ「和風れすとらん みなかわ」は、1986年の創業以来38年にわたり、「常磐もの」を中心とした刺し身や揚げ物を楽しめる看板メニューの「おまかせ定食」などを提供、地元住民らの胃袋を満たし続けている。昼時はもとより、週末ともなれば市内外から客が駆け付ける人気店だ。
店を切り盛りするのは2代目店主の皆川広司さん(58)と母公子さん(82)、お手伝いの館多加予さん(59)の3人。広司さんは「お客さんが来てくれるから店を続けられている。『ありがとう』の言葉しか浮かばないよね」としみじみ話す。
鮮魚店から出発
広司さんの父正さんが脱サラをして「有限会社みなかわ」を設立したのが78年。中岡町に鮮魚店「フレッシュみなかわ」を開業した。その後、約8年間にわたり営業を続ける中で、鮮魚店だけでは生活が厳しくなってきたこともあり、食堂を始める決断をした。正さんが仕出しなどを経験していたことも追い風となった。
正さんは約30年前に亡くなり、広司さんと公子さんが正さんの思いを受け継いだ。当時、フレッシュみなかわで役員として働いていた広司さんが食堂の代表を務め、公子さんは揚げ物の担当として腕を振るう。フレッシュみなかわで働いていた館さんは主に接客を担当。ほかに4人のパート従業員の力も借りて、のれんを守り続けている。
自慢の名物定食
「おまかせ定食」は、広司さんが「せっかく店に足を運んでくれるのだから、さまざまな味を楽しんでほしい」と考案した。煮魚や煮物、サラダ、大盛りのご飯、みそ汁も付き、舌の肥えた市民をうならせる味とボリュームが自慢だ。
広司さんは東日本大震災の発生当時、学生だった2人の娘と妻を連れ、東京都内で暮らす弟聡さんの自宅に避難した。「あの時は無我夢中だったけれど、東京に着いてから我に返った。やっぱり店に戻らないと」と、家族を残していわき市に戻り、物が散乱する店内を片付けた。
数日後、店の再開にこぎ着けるも1カ月後には、震度6弱の余震に見舞われた。「全てが嫌になった時期だった」と振り返るように、自暴自棄になったと明かす。それでも前を向いてもう一度頑張れたのは、常連客の「こんな時に店を開けてくれてうれしいよ」という温かい言葉があったからだ。
震災以外にも、新型コロナウイルス禍や昨年9月の豪雨災害など、店は幾多の困難に直面しては乗り越えてきた。店の行く末について広司さんは「子どもは2人とも娘だから」と不安を漏らすが、一人の従業員の10歳になる息子が飲食店の仕事に興味を持っているという。「もし店を継いでくれたらうれしいね」と冗談交じりに話す広司さん。これからも地域住民のため、家族のために調理場に立ち続けるつもりだ。(吉村響)
■住所 いわき市中岡町2丁目1の9
■電話 0246・62・3911
■営業時間 午前11時~午後8時(火、木曜日は同2時半まで)
■定休日 不定休
■主なメニュー
▽おまかせ定食=1500円
▽刺身定食=1800円(上)1100円(並)
▽海鮮丼=1800円(上)1100円(並)
▽かつお刺身定食=1100円
▽ヒレカツ定食=1200円
野菜や果物も販売
店内の一角では、いわき市中央卸売市場から仕入れたピーマンやトマト、トウモロコシなどの野菜や果物の販売も行っている。安くておいしい地元農産物を多くの人に楽しんでほしいと、約20年前から始めた。手作りの総菜なども扱っており、年配客を中心に人気を集めている。
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NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画
新まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。