初めてのれんをくぐった客は、看板料理に誰もが目を丸くする。豪快な盛り付けに目を奪われるが、あふれんばかりの料理には、飲食業を一途に生きてきた夫婦の深い愛情が隠されている。
新地町駒ケ嶺の旧国道6号沿いに店を構える「ごはん処はる」。人気メニューの海鮮丼は旬の魚介類が丼を彩る。ある日はカツオのたたき、マダイ、コハダ、マグロのトロ、アカエビなど。新鮮な刺し身だけで満足できるが、丼にはアオサと季節の野菜が入ったかき揚げ、ふんわりとした卵焼き、さらにはバナナも添えられている。代表の大和田春夫さん(65)は「これも食べたい、あれも食べたいというお客さんの声に応えたらこうなったんだ。バナナを付けたのはスタミナをつけて、頑張ってほしいとの気持ちから」と笑う。
大皿カツカレー
もう一つ、この店を語る上で外せないメニューがカツカレーだ。片手では到底持てない大皿にルーがたっぷりと張られ、小高く盛られたご飯に大ぶりのトンカツがのる。ここにも、かき揚げ、卵焼き、バナナがトッピングされる。そのボリュームに圧倒されるが、春夫さんは「量で勝負したり、目立とうと思ってメニューを考えているんじゃないんだ」と明かす。「うまいものをおなかいっぱい食べてほしいと本気で考えて、行き着いたのがこの料理なんだ」と続けた。こだわりのルーは濃厚な味わい。ビーフシチューをベースにすることでこくを出し、蜂蜜、みそ、しょうゆ、コーヒーなどで深みを加えていく。
価格は海鮮丼が1300円、カツカレーが1500円。採算が取れるのか、客は心配してしまうが、妻の美智子さん(67)は「損をしても変えたくはない」ときっぱり。かたくなに看板料理を守る理由は、おいしいものをたくさん食べ「おなかいっぱいの幸せ」を味わってほしいという2人の願いにある。それは飲食業に携わり続けた夫婦がたどり着いた結論でもあった。
ホテルのレストランで料理人をしていた春夫さんが、フロアで接客をしていた美智子さんと結婚したのは19歳の春だった。「いつか独立して商売するならば、この人がいいと思ったんだ」と照れくさそうに振り返る。2人は和洋問わず、さまざまな店で働いた。飲食業のつらさも分かる2人だが、おなかいっぱいの喜びが人を幸せにすることを誰よりもよく知っている。
お客さんに感謝
仲むつまじい夫婦から出るのは「お客さんとのおしゃべりに励まされてきた」(美智子さん)、「出会うお客さんに恵まれていたんだ」(春夫さん)という感謝の言葉だ。そんな2人が「最後は家族で切り盛りできる店を持ちたい」と開いたのがこの店だった。
7月で開業から20年目に入った。「あと何年できるか分からないが、来てくれるお客さんに2人でできる限り応えていきたい」と春夫さんは語る。精いっぱいの感謝を伝える料理は、出会った人々を食を通じて幸せにしてきた2人の豊かな人生の象徴でもある。(丹治隆宏)
■住所 新地町駒ケ嶺字新町103の1
■電話 0244・62・5311
■営業時間 午前11時~午後5時
■定休日 月曜日(変更の場合あり)
■主なメニュー
▽海鮮丼=1300円
▽カツカレー=1500円
▽トンカツ定食=1400円
▽しめコハダ丼=1400円(季節限定)
▽生イカ丼=1300円(同)
大漁旗イメージ
店内の壁には色鮮やかなメニューがびっしりと貼られている。「みんなと同じでは面白くない。インパクトがほしい」と、春夫さんが筆、フェルトペン、クレヨンなどを使って、カレンダーの裏に手書きしている。漁船が掲げる大漁旗をイメージしているという。
NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画
新まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。