「党を立て直す」との威勢のよい言葉が意味したのが、派閥政治への回帰であるのならば、党再生への道のりは極めて危うい。
高市早苗総裁の下、自民党の新執行部が決まった。今後、新政権発足に向けた動きが加速する。
高市氏は幹事長に鈴木俊一前総務会長、総務会長に有村治子参院議員、政調会長に総裁選を戦った小林鷹之元経済安全保障担当相を起用した。副総裁には総裁選で高市氏勝利の立役者となった麻生太郎元首相が就いた。
鈴木氏と有村氏は党内に唯一残る派閥、麻生派に所属している。同じく決戦投票で高市氏支持に回った旧茂木派から新藤義孝、鈴木貴子両氏を組織運動本部長、広報本部長にそれぞれ起用するなど論功行賞の色合いが強い。
党内に気心の知れた議員が少ない高市氏が、党内基盤を構築するため総裁選への貢献度を重視したのだろう。ただ、派閥支配の復活にも映り、旧態依然の党の体質に逆戻りしたとの印象が拭えない。
最も懸念されるのは、派閥の裏金事件に関係した旧安倍派の萩生田光一元政調会長を幹事長代行に据えたことだ。高市氏は裏金に関係した議員の処遇について「国民の代表として送り出された方々だ。人事に影響はない」と語っていたが、その意向を押し通した。
高市氏は、保守的な政治信条が重なる安倍晋三元首相に重用されてきた経緯があり、総裁選では安倍政治の路線継承を訴えた。旧安倍派の実力者「5人衆」の一人である萩生田氏の登用は安倍政治の継承だけでなく、裏金事件に象徴される「政治とカネ」問題に区切りを付けたとも受け取れる。
共同通信の総裁選後の世論調査では、高市氏に「期待する」との回答が68%に上ったものの、裏金事件に関与した議員の要職起用については77%が「反対」としている。党規則で処分を受け、国政選挙で審判を仰いだとはいえ、「解党的出直し」を目指す党のトップとして今回の判断は甚だ疑問だ。
こうした自民の姿勢を受け、公明党は連立離脱の可能性をほのめかしている。一方、高市氏と政策で一致点の多い玉木雄一郎代表率いる国民民主党の連立入りが取り沙汰されている。政権の枠組みを巡る協議は先行きが不透明で、15日に想定されていた臨時国会の召集は遅れることが確実だ。
比較第1党のトップが決まり、政治空白が解消されるかと思えば政党間の駆け引きで停滞が続く状況は看過できない。高市氏は早急に政権の枠組みを固め、喫緊の政策課題の解決に取り組むべきだ。