【まち食堂物語】楽陽・いわき市 「おいしかった」が喜び

 
調理場で作業する鈴木光一さん(中央)。妻スミエさん(右)、長男の嘉之さんらと一緒においしい料理を提供する(吉田義広撮影)

 看板「ニラレバ」

 飲食チェーンの店が多く立ち並ぶいわき市鹿島町の県道小名浜平線(通称・鹿島街道)で、赤いのれんが風になびく。この地で約50年前に開業した「楽陽」は、どこか懐かしい昭和の雰囲気にあふれ、ニラレバ炒め定食やモツ炒め定食、酢豚定食、肉野菜炒め定食などを求めて多くの人が足しげく通う。店主の鈴木光一(てるかず)さん(74)は「『おいしかった』と言ってくれるお客さんの顔を見るのが一番の楽しみ」と声を弾ませる。

 現在は鈴木さんと妻スミエさん(78)、長男の嘉之さん(49)ら家族とパート従業員を含めて5、6人で店を切り盛りする。「みんなで楽しく和気あいあいと店をやっている」と笑顔で話す嘉之さん。店内は鈴木さん家族を中心にアットホームな雰囲気に包まれる。昼時には作業着やスーツ姿のサラリーマン、休日には家族連れなどが訪れ、幅広い世代から愛されている。市内にはいわき平競輪場もあり、競輪選手も通うという。激しいレースを戦う選手たちのパワーの源にもなっている。

 平日の店内で椅子に座った客のほとんどが「ニラレバ炒め定食」と口々に看板メニューを注文する。豚のレバーを一度衣を付けて揚げ、ニラやモヤシなどと炒める。そんなシンプルなニラレバ炒めが常連客の胃袋をつかんでいる。現在のメニューは定食や麺類など50種類以上をそろえる。そのほとんどは鈴木さんが修業先で学んだ味を生かしたオリジナルのメニューだ。

 変わらぬ味自慢

 農家で生まれた鈴木さんは、酪農家や獣医師を目指し、磐城農高を卒業後、北海道の大学に進学した。しかし、大学1年の時に父が他界して大学を中退。地元いわき市に戻り、当時小名浜にあった中華料理「八宝苑」で働いた。「料理は好きではなかったけれど、おいしそうに頬張るお客さんの姿を見ていると楽しくなっていった」と当時を振り返る。気がつけば中華料理の道を志し、八宝苑で修業した。

 その後、当時平などで店を営んでいた楽陽のオーナーに呼ばれ、24歳の時に現在の鹿島町にある店の店長に就いた。そこから30歳でのれん分けし、楽陽の名を引き継いでスミエさんと心を新たに店をスタートさせた。「最初にここに来た時、周りは田んぼ。飲食店も5、6軒しかなかった」と当時を思い返す鈴木さん。スミエさんと店を守りながら、まちの成長を見守ってきた。

 のれん分けから加わったのがニラレバ炒め定食やモツ炒め定食などの人気メニューだった。鈴木さんは「味は一人で作っているから変わらない。それだけが自慢」と胸を張る。このほか、とんかつみそラーメンなど他ではあまり味わえないメニューも並ぶ。スミエさんは「この店は何を食べてもおいしい。『ニラレバを食べに来た』と県外からわざわざ来てくれたお客さんもいた」とほほ笑む。

 「あと何年できるか分からないが、お世話になった多くのお客さんのために変わらぬ味を提供したい」と鈴木さん。楽陽の味を求める人のために今日も鍋を振り続ける。(副島湧人)

お店データ

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240303syokudo022.jpgいわき市の鹿島街道沿いにある楽陽。赤いのれんが風になびく

【住所】 いわき市鹿島町走熊 小神山60の2

【電話】 0246・29・2474

【営業時間】 午前8時~午後3時

【定休日】 水曜日

【主なメニュー】
▽ニラレバ炒め定食=1200円
▽モツ炒め定食=1200円
▽肉野菜炒め定食=1300円
▽豚肉とキャベツのみそ炒め定食=1300円
▽酢豚定食=1300円
▽チャーハン=900円
▽肉そば=950円
▽麻婆ラーメン=900円
▽とんかつみそラーメン=1150円
▽肉焼きそば=1000円
▽五目焼きそば=1000円

240303syokudo023.jpg人気メニューのニラレバ炒め定食(左)と、とんかつみそラーメン

 午前8時から営業

 店はメニューを変えずに午前8時から開店している。元々午後8時まで営業していたが、新型コロナウイルスの影響で夕食時の営業をやめ、2020年から営業時間を変更した。

 夜勤明けのお客さんが多く、鈴木さんは「朝早くから開けてくれて助かるという声が多い」と話す。午前5時半ごろから清掃や仕込みなどを始めるという鈴木さん。「大変な面もあるが、喜んで食べてくれるお客さんのために営業を続けたい」と語った。

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 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。