保護と復旧...両立が課題 絶滅危惧種、再び被災地・沿岸部に

 
自然と復旧を両立させる取り組みとして注目される保全、保存区域=27日、相馬市松川浦

 東日本大震災の津波により、本県の沿岸部には湿地や塩性湿地、干潟ができるなど、開発される以前の状態に戻り、絶滅危惧種に指定されるような植物も見られるようになった。一方で復旧工事が進むことにより、人の手が加わる前に戻った生物の多様性は再び失われつつある。福島大共生システム理工学類環境システムマネジメント専攻の黒沢高秀教授(50)は「自然と復旧をどう両立させるかが大事」と課題について話す。

 本県は震災前、開発による人工海岸や半自然海岸が多く、全国でも自然海岸の割合が少ない県だった。湿地の埋め立てなどの改変でもともと生息していた植物は生育地を失い、一部は絶滅危惧種に指定された。だが、震災による津波で湿地ができ、姿を消していた植物が戻ってきた。「人の生活へは大きな被害をもたらしたが、自然にとっては回復の側面が大きかった」と黒沢教授は話す。

 現在、被災地では復旧事業が進む。防災のための海岸防災林や防潮堤、防災緑地の整備などにより、湿地や干潟は失われつつあるのが現状だ。

 黒沢教授は、自然と復旧を両立させる方法として(1)防潮堤を陸側に下げること(2)保護区を設置する―ことを挙げる。

 本県では、防潮堤の陸側への設置は実現しなかったが、希少な野生動物の保護を図るため、相馬市から南相馬市にかけ、約10カ所の保護区を設けている。

 保護区には重機などを入れない「保存区域」と工事後に湿地に戻す「保全区域」がある。他の被災県にはない取り組みで、「全国でも先進的な事例」として注目を集める。

 保護区では、長い間発見されていなかった希少な植物が多く見つかっている。黒沢教授は「復旧工事で海岸が変わることにより、自然だけでなく、人と海の関わり方まで変わる。どう折り合いをつけるか考える必要がある」と話す。