「森林除染」広がる波紋 再生へ懸念、環境省「物理的に困難」

 
作業に当たる林業従事者。より安心できる労働環境の確保に向け、県や林業関係者は作業者の被ばく対策を国に求めている

 環境省が昨年末、住宅など生活圏から20メートルの範囲や日常的に人が出入りする場所を除く大半の森林の除染を原則として行わない方針を示したことが波紋を広げている。東京電力福島第1原発事故で避難指示が出た地域は周囲が森林に囲まれた集落が多く、住民からは林業再生への懸念や「安心して暮らせない」などの声が上がる。一方、林業関係者からは「県内の森林全体の除染は難しい。作業者の安全対策を講じるべき」と、現実的な意見も聞こえてくる。

 県土の7割を占める森林の除染をめぐり、環境省は生活圏やキャンプ場など人が日常的に立ち入る森林については除染しているが、それ以外については方針を示していなかった。大半の森林を原則として除染しない方針を示した理由について、井上信治環境副大臣は「広い森林を面的に除染するのは物理的に困難で(落ち葉などの堆積物を取り除くことによる)土壌流出など悪影響もある」と説明した。同省は、実証事業の結果から「森林内の放射性物質が雨や風の影響で森林の外に流出する量は少なく、生活圏の空間線量への明確な影響は確認されていない」とした上で、「堆積物の除去を行えば土壌流出を招く」と結論付け、除染は適当でないと判断した。

 斜面が急な場所などでは土壌が宅地近くまで流れ込み、除染前より除染後の放射線量が上がった場所が確認された。このため必要なモニタリングの継続や対策を講じる方針。丸川珠代環境相は8日の閣議後会見で「人が日常的に出入りする所は除染する」とし、生活圏から離れた大部分の森林除染は行わない方針を変えなかった。ただ「どの範囲を日常的に入るエリアとするかは相談したい」との姿勢を示しており、今後地元との協議が進むとみられる。

 福島県の危機感「責任逃れ許さず」 

 県や原発事故による避難市町村は、除染が森林の大半で行われない場合、住民の帰還意識や林業再生に影響するのではないかと危惧する。

 県は「環境省は全く除染しないとは言っていないようだ」とみる一方、「(実証事業の)結果を理由に環境省が本県の環境回復に対する責任を逃れることは許されない」とくぎを刺す。

 県は今月4日、環境省に対し、地域の実情に応じた具体的な対策の速やかな構築をはじめ、対策実施に向けた工程表の提示、林業作業員の被ばく対策マニュアルの作成など、重層的な対策を求めた。

 県によると、昨年11月末現在、市町村が生活圏から20メートル以内の森林除染を計画している計3718ヘクタール(国が除染する避難区域を除く)のうち、除染が終わったのは52.6%の1956ヘクタールにとどまっている。