震災前の水準超へ努力と模索続く 福島県・震災前後の比較まとめ

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県産モモの出発式でテープカットする関係者=2018年8月1日

 東日本大震災、東京電力福島第1原発事故から7年5カ月が経過する中、県産農産物の輸出量は震災前の水準を超えた。深刻化した子どもの体力や運動機能は改善傾向にあり、工場の新増設件数は「補助金効果」などで順調に推移している。一方で、観光客数や教育旅行の宿泊者数、避難指示が出るなどした市町村の医療機関の再開率は震災前に届かず、関係者の模索と努力が続いている。震災前後の比較をまとめた。

 輸出量が過去最多

 【県産農産物】県産農産物の2017(平成29)年度の輸出量は約210トンと、震災前の水準を上回り、統計を始めた05年度以降で過去最多となった。東南アジアへのコメやモモ、ナシなどの果物が大きく伸びたが、現在も26カ国・地域が原発事故後の輸入規制を続けている。
 輸出量の推移をみると、震災前は香港や台湾など東アジアを中心に、主にコメやモモ、ナシなどを輸出しており、10年度の実績は153トンだった。原発事故で54カ国・地域が日本産食品の輸入規制を導入したことによって輸出量は激減、厳しい状況が続いていた。
 こうした状況を受け、県は輸入規制がなく風評も少ないタイやマレーシア、インドネシア、ベトナム、シンガポールなど東南アジアへの働き掛けを強めた。積極的な現地プロモーションにより、17年度のコメの輸出量は約122トンと前年度の約5.5倍に増え、県産農産物全体の輸出量を押し上げた。さらに17年に初めてベトナムに県産ナシを輸出したことや、タイに輸出したモモが好評で県産果物の取扱店舗が増えていることなどを要因に、17年度の県産農産物の輸出量は前年度の約3倍に拡大した。
 ただ、世界的な「日本食ブーム」を背景に日本全体の農林水産物の輸出は好調で、国内の産地間競争は厳しさを増している。原発事故後の7年間で日本全体の輸出量は急速に伸び、相対的にみると、本県の輸出量が全国に占める割合は16年実績の1%ほどにとどまっている。

 復調の9割、教育旅行は6割

 【観光客数】観光客数は回復基調にあり、16年は5276万4000人と震災前の9割強まで戻った。一方で、修学旅行やスポーツ合宿などの教育旅行で県内に宿泊した人は延べ43万5468人と、震災前の約6割にとどまる。
 観光客数は原発事故などの影響で11年に震災前の10年の約6割に落ち込んだ。その後、年によって浮き沈みはあったが、15年に大型観光企画の展開も手伝い5000万人台を突破。16年はさらに積み増す形で震災後最多を更新し、震災前の92.3%に回復した。
 教育旅行は11年度の震災前の2割弱から5年連続で増加、16年度には震災後初めて40万人を超えたが、震災の影響がない09年度の70万人以上と比べると61.3%にとどまる。
 都道府県別にみると、首都圏からの交通アクセスの良さなどを背景に、東京都の7万2749人がトップで埼玉、茨城、千葉各県の順に多い。ただ09年度比でみると、同じ首都圏でも本県に隣接する茨城、栃木両県が8割前後まで回復したのに対し、東京都や千葉、神奈川両県などは5割台にしか回復していないのが実情。東海・中部や近畿が5割台、四国が3割強と回復が遅い。

 補助金効果、順調に推移

 【工場立地件数】工場(敷地面積千平方メートル以上)の新増設件数は震災後、補助率や、補助額が国内最高規模の「ふくしま産業復興企業立地補助金」の効果などで増加した。17年は75件と前年を28件上回り、震災直後のピーク時ほどではないものの、今もおおむね順調に推移している。
 県は12年に立地補助金の制度をつくり、工場立地を推進。この影響を受け新増設件数は12、13年に100件を超えるなど高水準で推移した。ただ16年にピーク時の半数以下の47件となるなど、新増設が一段落したとの見方もあったが、17年に再び増加に転じた。17年度は、避難指示解除による立地環境の整備や福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想の機運向上などを背景に、特に相双やいわきで増加が見られた。
 立地補助金は17年9月6日現在、505社に計約2035億円が交付され、県内全域で6316人(見込み)の雇用を生み出している。

 再開3割、課題山積

 【医療機関】避難指示が出るなどした12市町村で再開した医療機関は31施設(8月現在)で、震災前の100施設の3割にとどまる。一部区域を除き避難指示が解除された全市町村で診療所が開設・再開されたものの、県は住民帰還に向けさらなる医療提供体制の整備を進める。
 再開した医療機関の内訳は病院3(震災前8)、診療所22(同60)、歯科診療所6(同32)。医療提供体制の再構築に向けては、再開した医療機関の経営安定化や透析など専門医療の充実、医療従事者の確保が課題となっている。特に経営面では居住者が少なく、医療機関の人件費が高騰して医業コストが増大、再開した医療機関の約7割が人件費や運営費の支援を受けて稼働しているのが現状だ。

 男女とも上回る

 【子どもの体力】原発事故の影響で深刻化した子どもの体力や運動能力は改善傾向が続き、17年度の全国体力・運動能力、運動習慣等調査(全国体力テスト)では、本県は男女とも全学年で実技8種目の合計点が震災前の水準を上回った。
 スポーツ庁が小学5年と中学2年を対象に実施する調査では原発事故後、屋外活動の制限や避難生活に伴う生活環境の変化を受け子どもの指標が大きく悪化。14~15年ごろから改善傾向にある。17年は全学年、男女とも抽出調査から全員調査に変わった13年度以降で最高値となった。

 女性が生涯に産む子ども「V字回復」

 【合計特殊出生率】1人の女性が生涯に産む子どもの推定人数(合計特殊出生率)は原発事故直後、放射線を不安視する妊婦の県外避難などで減少したが、その後は増加に転じ、現在は震災前の水準に戻っている。
 厚生労働省の人口動態統計によると、全国平均を上回っていた本県の合計特殊出生率は震災翌年の12年に全国平均と同水準1.41に落ち込んだが、その後に回復。17年は1.57で全国で12位。北海道、東北、関東で最も高かった。
 一方で、子どもが生まれた数を示す17年の「出生数」は1万3217人(前年比527人減)と減少が続いている。