傷修復、車の修理のように

 

 DNA(ディーエヌエー)は生物が生きていくために必要な全ての設計図の原本を集めた、巨大な辞典のような役割を持っています。A・T・G・Cという四つの文字だけを並べることによって書かれた暗号のような辞典です。

 私たちが毎日生活する中で、自然にも存在する放射線や紫外線、環境中の化学物質、薬剤、ストレスなど、DNAはさまざまな理由で傷を受けていました。その数は1日1細胞当たり、1万カ所から100万カ所に上ります。

 その一方で、私たちはDNAに傷を受けても、さまざまな方法で修復ができました。車の修理のように、車を点検し、傷が付いている所の部品だけを切り出して入れ替えたり、車自体の傷が大きすぎて直せないと判断すると、その車を廃車にしたりといったことができます。

 毎日、1細胞当たり数万カ所の傷を受けるわけですから、その傷に追い付く速度で修理する必要があります。このように私たちの細胞は毎日、とてもたくさんのDNAの修復を行っているわけです。

 低い線量の放射線によるDNAの傷は、このような毎日のDNAの傷に比べて圧倒的に少ないことが知られています。その一方、放射線の量が増えすぎるといったような、修復できないほどの傷を受けると、細胞の機能が維持できなくなったり、がんになったりといった問題が出てくるようになります。