「栽培に成功したときは感動したな」「愛(いと)おしくて収穫をためらったもんな」「震災後初めて農産物が出荷できてうれしいよ」。原発事故に伴う全町避難が続いている大熊町の大川原地区(居住制限区域)で、町民が笑顔を浮かべて語り合った。
農業復興を目指して15年に設立し、農産物生産に取り組む「おおくま未来合同会社」のメンバーだ。昨秋は県の支援を受け、同地区に新設したビニールハウスで希少な「ホンシメジ」の菌床栽培を成功させた。そして震災後初めて大熊産農産物を出荷した。
「放射性物質検査で安全が確認されたときはうれしかった」と振り返るのはメンバーの増子四郎さん(69)。県が開発した独自品種「福島H106号」は空調を使わず、自然環境下で栽培できる点が特徴。メンバーは避難先から毎日ハウスに通い、徹底した管理で栽培した。
栽培2年目の今年は、栽培数量を1500床から2000床に増やす。さらに菌床づくりの技術を習得するため、県林業研究センターで指導を受けている。メンバーの斎藤真さん(69)は「生産から販売までのビジネスモデルを確立させていきたい」と意気込む。
町内のインフラ整備などは活発だが、農業復興は課題が山積する。代表社員の畑川恵成さん(62)は「農業が営めるようになって初めて復興といえる」と考える。原発事故で震災前と同様の形での営農は難しいと感じながら「新しい農業のカタチを追い求める」と前を向く。農業復興への挑戦は始まったばかりだ。