【要件緩和】原発事故後に各地に整備された県営の復興公営住宅について、県は10月の募集から「住宅に困窮している低額所得者」の入居を認める。これまでは入居者を原則として原発事故による被災者に限っていたが、一般の県営住宅と同様の入居要件を追加することで、入居率の改善とコミュニティーの形成を図る。
仮設住宅からの一定の転居需要も考慮し、要件を緩和する復興住宅について「募集月の前々月末時点で入居率80%以下」の団地に絞る。県によると、5月末時点では県営49団地のうち13団地が該当。団地の市町村別の内訳については明らかにしていないが、会津地方が多いとみられる。
県は2019年以降、復興公営住宅に自主避難者の入居を認めるなどして段階的に間口を広げてきた。しかし、入居率の改善に向けた効果は十分に上がらず、制度の抜本的な見直しに踏み切った。
本年度の募集は10月、12月、来年2月に4~6回目が行われる。県は入居者の選定に当たって、原発事故による被災者を優先する方針だ。今後は多様な住民が対象団地で生活を共にするため、コミュニティーづくりが一層重要となる。
123戸の建設取りやめ
【整備】県は、入居要件の緩和と併せ、建設を保留していた県営復興公営住宅123戸の整備を取りやめる方針を決めた。これにより、完成済みの4767戸(県営4389戸、市町村営378戸)で計画は全て終了する。
県は2013年12月に策定した第2次県復興公営住宅整備計画で、4890戸(県営4512戸、市町村営378戸)の整備方針を明示した。
同年6月の第1次計画策定後、住民意向調査の結果を踏まえ、1190戸を上積みした。
14年8月、県内初の復興住宅(飯舘村営)が福島市飯野町に完成した。これ以降、県内15市町村で計71団地が19年3月までに整備され、順次入居が始まった。
退去者増え共益費高騰
【課題】東日本大震災と原発事故から12年以上が経過し、顕在化したのが復興公営住宅の入居率低下だ。空き戸数が5割近くに及ぶ団地もあり、残された住民は共益費の高騰やコミュニティーの崩壊に懸念を強めていた。
3月末現在の入居率は県営(4389戸)で84.7%、市町村営(363戸)は84.6%。空き戸数は計727戸に上る。
避難元の浜通りなどから遠い会津若松市内の県営住宅の入居率は72.4%で、特に低下が著しい。帰還や住宅再建が進んだためとみられる。
公営住宅の管理開始から10年間受けられる家賃減額措置については、6年目から段階的に縮小される。県によると、県営復興住宅の家賃は平均2万円余りだが、入居者の8割は月収8万円以下。実質負担額の引き上げが徐々に重みを増す過渡期といえる。
負担軽減へ「一歩前進」
【入居者の声】「ようやく一歩前進した。多くの人が入居してくれるといいのだが...」。会津若松市にある県営復興公営住宅の年貢町団地1号棟で自治会役員を務める鈴木幸子さん(75)は、入居要件を緩和する県の決定を受け、集会所で安堵(あんど)の表情を浮かべた。
42戸あるこの棟では高齢化や共益費が支払えないことなどを理由に、昨年だけで7世帯が退去。現在は22世帯が入居し、全体の半分近くが空いている。2016年7月の入居時に月額6千円だった共益費は、今年4月から1万円に上がった。共益費は共有スペースの光熱水費や設備の維持費を各世帯で割る仕組み。入居者が減れば、その分1世帯当たりの負担は増える。
特に入居者に重くのしかかるのは冬場の電気代だ。雨水管の凍結を防止する設備の電気代として、5000円ずつの上乗せが数年続いてきた。大雪が降る会津では除雪代もかさむ。費用を浮かすため、少量の積雪は入居者が協力して手作業で雪かきをしているが、高齢者が多く、作業も容易ではないのが現状だ。
鈴木さんは、被災者以外の住民が入居することについて「人が増えればにぎやかになって楽しいはず。新しい仲間として迎え入れたい」と前向きだ。一方、共益費の高騰で入居希望者が二の足を踏むのではないかと心配もする。「最低でも10世帯は入居しないと、負担軽減につながらない。多くの人が入ってくれることを願う」と期待を寄せた。