東京電力福島第1原発事故に伴う除染土壌の最終処分に向け、政府が参考事例として念頭に置くのが、全原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の処分地選定だ。土壌に比べて放射能レベルが桁違いに高い一方、共通する部分は一つの先例となる。
昨年5月、佐賀県玄海町は国の文献調査申し入れを受ける意向を表明した。調査は処分地選定の最初の手続き。原発立地自治体として初めての受諾だった。
しかし町内の評価は分かれる。反対する前川和民町議は「順序が違う。把握する限り賛成の住民はいない」と述べ、住民合意を伴わない決断だと批判する。
脇山伸太郎町長が受け入れを表明したのは、町議会が調査を求める請願を採択した約2週間後。「議会の判断は重く、間を置くべきではない」(脇山氏)。原発立地町が名乗りを上げることで、国民的議論を喚起する狙いもあったという。
ただ、事前の住民説明は開かれず、前川氏は「住民にとって寝耳に水。(隣の)唐津市でも反対が強まっている」と指摘。地元同意が後回しにされたと苦言を呈す。
核のごみの処分地選定に向け、手続きを定めた2000年の最終処分法成立から25年。3段階ある調査のうち文献調査に応じた自治体は北海道寿都(すっつ)町、神恵内(かもえない)村を含めて3町村に過ぎない。首長らはいずれも「全国的な議論を喚起したい」と息巻いたが、望みはかなっていない。
受け入れ表明後、玄海町には五つの地方議会関係者らが視察に訪れた。だが調査に賛成する町議の一人は「『重大な決断をされた』とねぎらわれるだけで、どの自治体もそれ以上の動きはない」と明かす。
国は文献調査受け入れに最大20億円の交付金を用意した。財政難の自治体から名乗りを誘う構図だが、金目当てとの批判を招きやすく、自治体を慎重にさせる側面もある。
核のごみの問題は25年を経てもなお、出口が見えそうもない。
「政府は社会全体で認識をつくる努力をどれだけしてきたか」。放射性廃棄物の処分に詳しい東京電機大の寿楽(じゅらく)浩太教授は、核のごみ最終処分実現に向けた国の姿勢に疑問を投げかける。
最終処分法の国会審議は最小限の日程で進み、法案提出から約2カ月半で成立した。「日々新聞を飾る論争にはならず、国民が知る機会を逃す形になった」とし、議論の入り口で社会的合意を醸成できなかったことが今につながっていると分析する。
一方の除染土壌も、国内の理解醸成は序盤で難航する。約束の期限まで残り20年。寿楽氏は「45年3月という期限の認識や県外処分に全国的な了解は得られているのか。場所探しや技術的方法論の前に、政府や事業者が社会に賛同を求めることが大事だ」と促す。