国際社会からの非難を無視し、非道な行為を強行し続けるのは断じて許されない。日本政府は各国と協調し、毅然(きぜん)とした態度で人道危機の解決に尽くすべきだ。
イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザの中心都市、北部ガザ市で地上侵攻を開始した。軍は同市にイスラム組織ハマスの戦闘員が数千人いるとみて組織の壊滅を目指すという。市内には避難民を含む約100万人が暮らしていた。イスラエル軍は住民らに南部へ退避するよう通告したが、6割は市内にとどまっているもようだ。
軍は人口密集地を空爆し、建物や小児病院などを破壊した。戦車が主要道路を走り、住民は恐怖におののき逃げ惑う。2023年10月の戦闘開始からの死者は6万5千人を超えている。地上侵攻により、さらに犠牲が拡大するのは必至の状況だ。イスラエルは直ちに作戦を停止すべきだ。
ガザでの人権状況を調べる国連人権理事会の委員会は、ネタニヤフ首相らがパレスチナ人に対するジェノサイド(民族大量虐殺)を扇動したと結論付けた。イスラエル当局や軍は、虐殺の「明確な意図」を持ち、ガザを攻撃し続けていると指摘している。
ガザの住民は飢餓にも苦しめられている。国連などが支援活動を展開するなか、イスラエルは物資の搬入を阻むだけでなく、食料を求める住民に銃口を向けた。
常軌を逸した行動はこれだけではない。軍は先日、米国が新たな停戦案を示した後、交渉の仲介役を務めるカタールの首都ドーハを空爆した。ドーハにはハマスの政治部門の拠点があり、交渉団トップを狙い、関係者を殺害した。停戦交渉を踏みにじり、中東情勢をさらに緊迫化させる蛮行だ。
欧州連合(EU)欧州委員会は関税の優遇措置停止などの制裁を検討している。国際社会全体で圧力を強め、非人道的な行為をやめさせなければならない。
フランスや英国は、パレスチナを国家承認する意向を表明した。世界では約150カ国が国家承認を済ませている。イスラエルを支援するトランプ米政権は「和平実現を後退させる」として承認に反対の立場を示し、日本政府も承認を見送る方針を固めた。承認すればイスラエルが態度を硬化させ、ガザの情勢がさらに悪化することを懸念したとみられる。
日本政府はイスラエルとパレスチナが共存する「2国家解決」を支持してきた。米国に配慮し、この危機的状況を傍観していては、国際社会の信頼を損なうことを政府は認識しなければならない。