人の思い預かる責任
「新聞で伝えてほしい」。父親を80年前の戦争で失った遺族からかけられた言葉を忘れることができない。
この夏、先の大戦に向き合った県民の姿を伝える連載に携わった。取材を任されたのは、サイパン島で戦死した父親の足跡を追い続けてきた80代男性だった。男性の自宅を訪ね、父親の日記や手紙を読ませてもらった。手書きの文字の一字一字からは、生きた証しと家族への愛情がにじみ出てくるようだった。
男性が父親に寄せる気持ちにも触れた。写真でしか見たことがない父親の面影を求めて、男性はサイパンを何度も訪れていた。時がどんなに流れようと、父親を慕い続ける男性の姿に、戦争の記憶を伝えることの意味を考えさせられた。そんな思いを抱いて男性宅を後にしようとしたとき、冒頭の言葉をかけられた。人の思いを預かって伝えるこの仕事に、重い責任があることを改めて思い知った。
この春大学を卒業し、入社後、事件や事故を担当する社会部に配属された。秋田県出身で福島に住むのは初めて。土地勘もなく、地名を聞いても場所が浮かばないところからのスタートだった。最初は事件や事故の現場にたどり着くのもやっとだった。うまく質問ができず、伝えるべきことを聞き出せない自分が歯がゆくて仕方なかった。
それでも、少しずつ変わってきた。地名を聞いて光景が浮かぶようになり、サイレンの音が聞こえると、いつの間にか体が自然に動くようになった。そして「記事を読んだよ」と話しかけてもらったときは、うれしかった。小さな記事でも誰かに届いているんだと実感した。毎日、知らなかった世界に出合えるのがこの仕事の魅力だ。日々の感動を大切にして、現場で感じたことを丁寧に伝えていきたい。