【まち中華物語】中華五十番・福島市 家族がつなぐ父の味

 
福島市中心部で人気の味を親子で守る(右から)喜美子さん、恭一さん、栄治さんの3人(吉田義広撮影)

 中華鍋で具材を炒める小気味よい音が店内に響く。熱気がこもる厨房(ちゅうぼう)には、あうんの呼吸で黙々と料理を作る兄弟の姿。福島市上町の「中華五十番」は1976(昭和51)年5月のオープンから半世紀近く、県都の中心部の一角で歴史を重ねてきた。

 実はONコンビ

 「先代の父の味を引き継ぎたい」。現在は2代目の長島恭一さん(43)が弟栄治さん(41)と協力し、創業当時と変わらぬメニューを提供している。料理をテーブルまで運ぶのは母喜美子さん(83)の仕事。家族のリレーがこの店の日常風景だ。

 先代の豊さんは東京で経験を積み、古里の福島市に戻って自分の店を構えた。詳細は不明だが、プロ野球・巨人で現役時代に「世界の本塁打王」として活躍した王貞治さん(現ソフトバンク球団会長)の親戚と修業先で親しくなり、王さんの両親が営んでいた都内の中華料理店と同じ店名「五十番」を名乗ることを許されたという。

 この店名の由来と店主の名字が長島という偶然を知る人は「ほとんどいない」と恭一さんは笑う。

 番の付く中華料理店は多く、福島市渡利には「中華十八番」がある。こちらは豊さんの下で働いていた中華五十番の元従業員が独立し、阿武隈川を挟み約800メートル離れた場所に出店した関係性がある。

 看板メニューはあんかけスタイルの「五目ヤキソバ」と「海老(えび)ヤキソバ」。表面をわずかに堅焼きした麺があんと絡み合う。庶民的な味わいでありながら、その中に料理人の腕が感じられる。多くの来店客の舌を魅了してきた一品だ。

 しかし、昔は堅焼きした焼きそばは市内でなじみが薄く、喜美子さんは「勘違いされて『麺が焦げている』『下手くそだな』と笑われたこともあった」と述懐する。

 五目ヤキソバは豚肉やエビ、赤ハム、白菜など9種類の具材を使い、ボリューム満点だ。昼時は働き盛りの県職員や警察官、サラリーマンらが胃袋を満たしに来る。

 かつての常連客には知事を務めた故松平勇雄さんもいた。店のオープンと同じ76年から3期12年にわたり県政のかじ取り役を担い、部下らを連れて何度も訪れた。

 背中追いかけて

 中華五十番は街の栄枯盛衰を知る店でもある。創業した頃は福島駅前に移転前の上町バスターミナルや「ミサイルタワー」と呼ばれる広告塔がシンボルだった百貨店の中合が近くにあり、にぎわいの中心地だった。「当時の上町周辺は華やかな街。あの頃の活気が戻ってほしい」と喜美子さんは願う。

 歳月は流れ、店の目の前にあった福島市水道局が移転し、跡地は大原綜合病院の新病院となった。道路の拡張工事に伴い、店も2018年12月に新築オープンした。

 そして、今年1月、店内の日常風景にも変化があった。先代の豊さんが73歳で病に倒れた。18年夏ごろから抗がん剤治療を続けて3年半。亡くなる3日前までいつも通り厨房に立ったが、体は限界だった。

 「父は職人気質で短気。しったを受け、言い合いになることがよくあった」と恭一さん。日常茶飯事だった親子げんかは見られなくなった。喜美子さんは「まだ店のどこかにいるような気がする」と生前の姿を脳裏に浮かべる。

 今は家族3人で切り盛りしている。常連客からかけられる「おやじさんと変わらない味だね」「おいしかったよ」は何よりの褒め言葉だ。高校卒業後から店で働き、父の背中を追いかけてきた恭一さんは特別な思いを胸に秘める。「これからは自分でプラスアルファを探し、父に負けない料理を出したい」(鈴木健人)

お店データ

中華五十番の地図

【住所】福島市上町5の27

【電話】024・522・3500

【営業時間】午前11時~午後2時。夜は新型コロナウイルス感染拡大などに伴い現在営業していない

【定休日】日曜日、祝日

【主なメニュー(昼)】
▽五十番ラーメン=820円
▽ラーメン=590円
▽タンメン=700円
▽五目ヤキソバ=800円
▽海老ヤキソバ=830円
▽揚ヤキソバ=800円
▽天津飯=800円
▽麻婆(マーボー)中華飯=800円
▽五目チャーハン=670円
▽野菜炒め=610円
▽ニラ玉子炒め=630円
▽餃子(ギョーザ)=510円
▽シューマイ=510円
▽ライス=200円
※お店のメニュー表とは料金が異なります。

【店主メモ】野菜炒めは強火で短時間の調理が「シャキシャキ」とした食感にするこつ。夏場は暑さとの闘い。重さ1キロ以上の中華鍋を使っていて、腱鞘(けんしょう)炎にも悩まされる。

看板メニューの五目ヤキソバ看板メニューの「五目ヤキソバ」

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜に連携企画

 まち中華物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。