復旧現場支える

　豪雨災害を乗り越え、昨年１０月に全線再開通したＪＲ只見線。金山町のＪＲ会津川口駅のすぐ近くにある「おふくろ食堂」は、只見線をこよなく愛する鉄道ファンらによって全国に名を知られるようになった知る人ぞ知るまち食堂だ。

　店内には地元テレビ局のアナウンサーや現在も第一線で活躍するお笑いタレント、文化人など幅広い人たちのサインが並ぶ。ほかに目を引くのは壁いっぱいに飾られている只見線の写真だ。「昔から利用してくれる鉄道ファンが贈ってくれたんです」と女将（おかみ）の長谷川千鶴さん（６６）。インターネットが普及して以降、食堂を利用した鉄道ファンがおふくろをブログで紹介すると、たちまち店の評判が広まっていった。

　おふくろと只見線は切っても切れない関係にある。２００５年３月１２日、早戸―会津水沼間で発生した土砂流入による列車脱線事故があった。復旧を担う業者に出す食事の手配の要請を受けた長谷川さん夫妻は急きょ、おにぎり１００個を提供した。同じ年に別の列車事故が発生した際も対応に当たる県職員の宿泊を受け入れたという。千鶴さんは「あの時は無我夢中で、どうやって店を回していたのか覚えていない」と店に飾られた感謝状を見詰めながら懐かしむ。

　店は千鶴さんの夫三起男さん（７１）の母の故ミツさんが現在地で開業したのが始まり。５５年ほどの歴史があるらしいが、千鶴さんは「保健所に照会したが、古い記録が残っていないので正確な年数は分からないの」とあっけらかんと語る。昔から周辺で働く県職員や企業の社員らが「天ぷらにしてくれ」と山菜を持ち込むことがあるなど、地域に親しまれた食堂だったという。

　ミックス話題に

　地域や鉄道ファンらに愛されるおふくろの名物の一つが、ラーメンとライス、カレー、カツを組み合わせた「カツカレーミックスラーメン」だ。２０００年ごろは金融機関の支店に勤める単身者らが多く、ラーメンとご飯を注文する客が目立った。長谷川さん夫妻はラーメンの器にご飯を沈めた料理を試食し、さらにカレーを取り入れることでカツカレーミックスラーメンの原型が０５年ごろに生まれた。カツをのせるようになったのは、郡山市から通っていた常連客が「俺のはカツをのせて」と注文したのが最初だった。当時店内にいた別の客も次々と、誕生したばかりのメニューを注文し、瞬く間におふくろの看板料理となった。

　千鶴さんは「最初にまぜてしまいがちだが、食べ方があるんだ」と、おいしくいただく方法を伝授する。まずはカツを一口食べ、まぜずに手前から麺をすする。その後も麺を一口ずつ食べていくことで、器の中で自然とカレーとスープ、ご飯がまざり合い、絶妙な味加減になるという。

　珍しいメニューも話題となり、常連客が増えるうちに千鶴さんの出迎えの言葉は「いらっしゃい」から「お帰りなさい」、客を送り出すあいさつは「行ってらっしゃい」と変わっていった。おふくろは、町外から訪れた人たちにとっての「玄関口」。行きつけの店にしたくなるような確かな味わいや魅力が、おふくろにはある。（鹿岡将司）

ＪＲ只見線会津川口駅から近く、鉄道ファンの利用客も多いおふくろ食堂

【住所】金山町川口字下町６０１

【電話】０２４１・５４・２４２９

【営業時間】午前１０時～午後３時（スープがなくなり次第終了）

【定休日】第２、４木曜日（臨時休業あり）

【主なメニュー】
▽カツカレーミックスラーメン＝１１００円
▽チャーシューメン（しょうゆ、しお）＝９８０円
▽チャーシュー丼＝１１００円
▽ソースカツ丼＝９９０円
▽カツカレーライス＝１１００円
▽カツ定食＝１４００円
▽セットメニュー（好きなラーメンと半カツ丼・半カレーなど）＝９７０円～
▽チャーシューロール（要予約）＝１１００円

食べ進むとカツ、麺、カレー、ご飯が順番に味わえるカツカレーミックスラーメン（左）と、常連客に人気で予約が必要なチャーシューロール

　自然生かした名物

　金山町では沼沢湖に近い太郎布（たらぶ）高原に自生するアザキダイコンが淡い紫色の花を咲かせ、初夏を彩る。そのアザキダイコンを使ったつけ麺と、チャーシューロールも人気を集める。

　つけ麺は薬味のアザキダイコンおろしと一緒に食べたり、かえしとおろしを組み合わせたりして多彩な味を楽しむことができる。チャーシューロールは要予約。町の天然炭酸水で仕込んだチャーシューはラーメンにも使われている絶品だ。

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　ＮＨＫラジオ第１「ふくどん！」で毎週木曜に連携企画

　まち食堂物語は福島民友新聞社とＮＨＫ福島放送局の連携企画です。ＮＨＫラジオ第１で毎週木曜日に放送される『ふくどん！』（休止の場合あり）のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。