【まち食堂物語】お食事処おかもと・いわき市 手間暇惜しまず丁寧に
親子で切り盛り
やわらかい鶏もも肉をからっと揚げたボリューム満点の「とりモモからあげ定食」に、脂ののったアジフライ、ジューシーなもちもちギョーザ...。いわき市南部の住宅街にたたずむ「お食事処おかもと」は、今日も地域住民やサラリーマンで活気づく。
「地域の人々に愛される料理を提供したい」と、2代目店主の岡本耕治さん(49)と母知子さん(76)の親子で店を切り盛りしている。調理場と接客を明確には分けず、臨機応変に対応する。手間暇を惜しまぬ丁寧な仕事こそが、40年余りも地元で愛されるゆえんだ。
おかもとの始まりは1983年にさかのぼる。現在の店舗から南に約500メートルほど離れた場所で開業した。「いつか飲食店を持ちたい」。耕治さんの父で、今年7月に78歳で亡くなった初代店主の良一さんが抱いていたという長年の夢に、知子さんも乗っかった。
東京出身の良一さんは、都内のホテルやレストランで働いていた経験を持ち、知子さんの就職先で知り合い結婚。その後いわき市で約3年間のサラリーマン生活を経て、自身の夢をかなえた。知子さんが地元の出身ということもあり「起業するなら妻の実家のある場所で」と市内に店を構えた。良一さんは病気を患いながらも6、7年ほど前まで店に立ち続けていた。
耕治さんは地元の高校を卒業後、市内の専門学校を経て、20代前半からは趣味のスキーに没頭した。「アルバイトでお金をためては山に通う日々だった」と振り返るが、その腕前は会津地方の宿泊施設でインストラクターとして招かれるほど。元々知子さんの趣味がスキーということもあり、幼い頃から家族でスキーに出かける機会が多かった。今でもシーズン中には講師を務め、そのキャリアは25年以上を数える。30代前半で結婚し市内の一般企業に勤務していたが、良一さんが闘病生活を余儀なくされたことで「息子の俺がやらなくて誰がやる」と一念発起。2代目として店に立つ決心をした。
変わらぬ味提供
メニューは創業当時からほぼ変わらず昔ながらの料理を提供するが、耕治さんはサラリーマン時代、食品開発に携わっていた経験と知識を生かし、先代の時代にはなかった「とりモモからあげ定食」を考案。ほぼ毎日来店し、決まって注文するという常連客もいるほど、耕治さん自信の一品だ。今ではオリジナルメニューの「ゴマみそラーメン」や「ソースカツ丼」などと、交流サイト(SNS)などを通じて浸透し、以前よりオーダーが増えている。
店は12年前の東日本大震災をはじめ、近年の新型コロナウイルス禍、そして今年9月上旬にいわき市を襲った台風13号に伴う豪雨など、さまざな危機を乗り越えながら歴史を紡ぐ。耕治さんと知子さんは時にはけんかをすることもあるというが、親子ならではの"あうんの呼吸"が乱れることはない。
「ほかの家族経営の店よりは仲良くやっていると思うけど」。知子さんのちゃめっ気たっぷりの言葉からは、親子の強い絆が伝わる。そんな親子は、昔ながらのどこか懐かしい味をこれからも変わらずに作り続ける。(吉村響)
長年にわたり地域の人々に愛され続ける「お食事処おかもと」の店構え
【住所】いわき市佐糠町東1丁目11の3
【電話】0246・63・9593
【営業時間】午前11時~午後2時30分、午後5時~同7時
【定休日】木曜日(不定休あり)
【主なメニュー】
▽とりモモからあげ定食=1000円
▽アジフライ定食=900円
▽エビフライ定食=1050円
▽野菜炒め定食=950円
▽カツ煮定食=950円
▽ギョーザ定食=850円
▽ソースカツ丼=950円
▽エビ丼=850円
▽親子丼=850円
▽ラーメン=650円
▽野菜ラーメン=750円
▽ゴマみそラーメン=800円
▽五目ラーメン=900円
▽タンメン=750円
▽あんかけラーメン=900円
▽うどん/麦きり
ざる=700円
たぬき=750円
看板メニューの「とりモモからあげ定食」(手前)。肉厚のアジフライやギョーザもリピーターが多いという
名物「麦切り」人気
おかもとでは麺料理のラインアップも豊富で、ラーメン系はもとよりうどん、麦切りなども人気を集める。麦切りは、明治時代から山形県庄内地方に伝わる名物の細打ちうどんで、先代の良一さんが店を始めた頃に修業で赴いた食品会社が同地方にあることから、「これも縁」と現在でも麺類はその会社から定期的に仕入れている。週に一度は訪れ、決まって麦切りメニューを注文する常連の女性客もいるという。
◇
NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画
まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。
- 【新まち食堂物語】みつわ食堂・いわき市 ずっと一緒、ふたりの味
- 【新まち食堂物語】同気食堂・西会津町 心も満腹、赤髪女将の店
- 【新まち食堂物語】御食事処竹の家・棚倉町 親子3代、持ち味つなぐ
- 【新まち食堂物語】妙見食堂・矢吹町 寮母の愛、味にも量にも
- 【新まち食堂物語】柏屋食堂・本宮市 秘伝のたれと信念守る
- 【まち食堂物語】やなぎや・伊達市 驚きの安さ、活力も注入
- 【まち食堂物語】お食事処ながせ・いわき市 遊び心からメニューに
- 【まち食堂物語】ドライブイン磐尚・猪苗代町 雪下キャベツ、肉は脇役
- 【まち食堂物語】楽陽・いわき市 「おいしかった」が喜び
- 【まち食堂物語】初梅・相馬市 安心の優しい家庭料理