避難指示解除...復興向け『大きな一歩』 町民待つ夜の森の桜並木

 

 浜通りの中央に位置する富岡町は自然豊かで、四季を通じた温暖な気候が特徴だ。町のシンボルは「夜の森地区の桜並木」。毎年春になると現れる「桜のトンネル」目当てに見物客が訪れ、双葉郡屈指の観光スポットとなっていた。原発事故で桜並木の大半は帰還困難区域に指定されたが、4月1日に同区域を除いた地域の避難指示が解除され、町民は以前のように古里の桜を間近で楽しめるようになる。ことしの桜の開花に歩調を合わせるかのように町は復興に向けた大きな一歩を踏み出す。

 「線量不安」町民に根強く 防犯、安全面の改善必要

 【現状と課題】最も大きな課題は空間放射線量の低減だ。政府が1月に県内外3カ所で5回にわたって開いた住民説明会では、線量低減を求める意見が数多く寄せられ、避難指示解除を控えた町民の不安があらためて浮き彫りになった。
 帰還困難区域を除いた町内の除染はほぼ終了した。全体的に線量は下がったものの、「局所的に線量の高い地域が残っている」との声は多い。線量に対する町民の不安は根強く、追加除染の継続や効果的な除染を求める声も聞こえてくる。
 町教委は来年4月に、町内で小、中学校を再開させたい意向だが、保護者が子どもたちを安心して学校に通わせる環境を整えるためには線量低減に加え、専門家のアドバイスを得て放射線の不安を解消する必要がありそうだ。
 町は昨年9月に、長崎大と放射線被ばく対策に関する連携協定を締結。同大の専門家が、町民の被ばく線量の評価やリスクコミュニケーション活動を行うことが盛り込まれており、避難指示解除後の役割に注目が集まる。
 町民からは「自宅が空き巣に入られた」「町内でイノシシが増えている」といった防犯、安全面の改善を求める声も出ている。町はことし2月、避難指示解除後を見据え、政府の関係省庁に(1)さらなる放射線量の低減に向けた除染(2)町内生活環境の充実(3)町外生活支援の継続(4)被害実態に即した責任ある賠償(5)復興・創生を支える確実な国の財政支援―を求めた。
 町は独自の防犯対策として、各家庭に設置する防犯カメラの補助を検討している。イノシシなどの有害鳥獣の被害防止に向けては独自の実証実験に取り組んでおり、「準備宿泊」をしている町民の協力を得ながら、対策機器の効果を検証している。

 「戻りたい」16%、「戻らない」57%

 【意向調査】復興庁と県、町が実施した帰還などに関する住民の意向調査によると、2016(平成28)年8月の調査で「戻りたいと考えている」と回答した町民の割合は16.0%で前回15年8月調査から2.1ポイント増えた。一方で「戻らないと決めている」との回答が57.6%と6.8ポイント上昇、帰還を諦める町民が増えた結果となった。「まだ判断がつかない」は25.4%で4.0ポイントの減。
 16年調査では「戻りたいと考えている」と答えた町民のうち、帰還時期について「決めていないがいずれ戻りたい」が37.5%(15年調査比1.0ポイント減)で最多となった。「解除後すぐに戻りたい」は36.0%(同2.6ポイント増)、「解除後3年以内に戻りたい」は18.3%(同0.1ポイント増)、「解除後5年以内に戻りたい」が5.4%(同0.9ポイント増)、「解除後10年以内に戻りたい」が1.9%(同0.9ポイント減)。
 また「戻らないと決めている」と回答した町民のうち、町とのつながりを保ちたいかの問いについて「そう思う」が51.6%と半数を超え、「そう思わない」が8.8%、「分からない」が33.5%だった。