避難指示解除...復興へ始まる『挑戦』 新たな課題も浮き彫りに

 
急ピッチで作業が続けられる山木屋小中一貫教育校。住民は子どもたちの歓声が響く日を待ち望む

 2011(平成23)年3月の東京電力福島第1原発事故に伴い、12市町村に設定された避難区域。事故から7年を迎え、避難指示が解除された地域では徐々に生活環境が整備され、帰還困難区域でも解除に向けた取り組みが始まっている。しかし、住民帰還や事業再開などの進捗(しんちょく)には地域間で差も生じており、新たな課題も浮き彫りになっている。

 拠点整備へ除染や解体

 【双葉】面積の96%が帰還困難区域の双葉町はいまだ全町避難が続くが、昨年9月には同区域がある7市町村で最も早く、除染やインフラ整備を併せて行う「特定復興再生拠点区域」(復興拠点)の整備計画が国に認定された。同12月には拠点整備の第1弾となる除染と建物の解体工事が町内の一部で始まり、復興へ大きな一歩を踏み出した。
 復興拠点の面積はJR双葉駅を中心に町面積の1割となる約555ヘクタール。計画では駅西側に生活拠点、東側に交流拠点などを整備する。22年春までに復興拠点の避難指示を解除し、解除から5年後に町民ら約2000人の居住を目指す。20年3月末までのJR常磐線の全線開通に合わせ、同駅周辺の一部と町の4%に当たる避難指示解除準備区域の避難指示は先行解除する方針だ。
 同準備区域内の中野地区では今年1月、「復興産業拠点」の造成工事が始まった。18年度中に拠点内の一部のインフラを整備し、企業への分譲を始める計画。
 同産業拠点には県のアーカイブ拠点施設(震災記録施設)や町民の交流施設が整備されるほか民間企業の進出も見込む。東京電力は福島復興本社(富岡町)を20年をめどに双葉に移転する方針。町は県内外の企業に進出を働き掛けており、その成否が復興の鍵を握る。

 18年から「準備宿泊」開始

 【大熊】大熊町は全町避難からの帰町準備が一段と本格化する。19年春に大川原(居住制限区域)と中屋敷(避難指示解除準備区域)の両地区の避難指示を解除する方向で、今年から準備宿泊を始める。18年は町民の帰還が懸かった大事な年だ。
 特に町が第1次復興拠点に位置付ける大川原地区ではインフラ関係の整備が進む。帰町に向け、役場新庁舎や復興公営住宅、交流施設、商業施設、福祉施設などの建設を予定している。多くの人が「住みたい」と感じられる安全・安心なまちづくりをいかに進めるかが鍵といえる。
 一方、原発事故前に町民の96%が住んでいた地域は帰還困難区域になっている。このため町は中心部を「特定復興再生拠点区域」(復興拠点)にして、除染とインフラ整備を進める。常磐線の全線開通に伴って20年に大野駅周辺、22年には同拠点区域全域の避難指示を解除する。
 町民の生活再建支援が課題だ。避難の長期化で地域の絆は薄れ、家族であっても離れて暮らす現状がある。そこで多様化する要望に応える方策を探っていく。避難指示解除から5年後の27年に約2600人の居住人口を目指す。町民が希望を持てるよう復興への時間軸を示し、将来への不安を減らす考えだ。

 若い力でにぎわい創出

 【南相馬・小高】16年7月に一部地域を除き避難指示が解除された南相馬市小高区は、昨春、小、中学校が再開、小高産業技術高が開校するなど、子どもたちの元気な姿が戻り、若い力がまちに活気を取り戻した。
 2月末現在、同区の帰還者は1134世帯2512人で、居住率は約29.6%。帰還者のうち65歳以上の高齢者は1263人で、全体の約50.2%を占める。
 市によると、同区には毎月約80人規模で住民の帰還が進んでいる。
 住民の帰還促進に向けては、生活環境の一層の改善が急務となる。中でも買い物環境の整備が途上で、市によると、同区内で食料品を扱う小売店はJR小高駅前の仮設店舗「東町エンガワ商店」、鮮魚店2店舗、コンビニ3店舗の計6店舗にとどまる。
 このほか2月からは市内外の有志の民間事業者が毎週水曜日に新鮮な青果や鮮魚などを売る「昼空市」を開いている。
 しかし、帰還した住民の多くは生鮮食品や日用雑貨などを求め、同市原町区のスーパーまで往復1~2時間かけて買い出しに出掛けているのが実情だ。
 市は公設民営の商業施設を小高区に今年12月に開設予定で、住民の帰還促進とまちなかのにぎわい創出を目指す。

 町内には500人超居住

 【浪江】浪江町は17年3月31日に帰還困難区域を除く地域で避難指示が解除された。避難指示解除区域の対象人口は町全体の約8割となる1万5000人超を占めた。町内には2月末現在で、351世帯516人が居住している。町職員や復旧・復興事業に従事する作業員のほか、帰還している住民は大部分が高齢者とみられる。
 町内では、再開・新規合わせて今月1日現在で85事業者が事業活動を行っている。町によると、昨年4月と比較すると、事業者数は34件増。
 4月には同町幾世橋でなみえ創成小、なみえ創成中が開校する。町教委によると、入学が見込まれる児童・生徒数は10人程度。震災と原発事故から7年が経過し、子どもたちが避難先に定着したことなどが要因とみられる。
 帰還困難区域に整備する特定復興再生拠点区域(復興拠点)は、今年から23年までに室原、大堀、津島の3地区で約661ヘクタールを整備する。同区域の避難指示解除時期は23年3月末までとしており避難指示解除から5年後のおおむねの人口は約1500人を目標としている。
 町は復興拠点を同区域の復興に向けた第1ステージとして位置付けており、その後の状況を踏まえつつ、段階的に整備範囲の拡大を目指す。

 産業再生に明るい兆し

 【飯舘】17年3月31日に避難指示が一部地域を除き解除された飯舘村では、1日現在、320世帯618人が生活する。同村深谷には復興拠点施設「いいたて村の道の駅までい館」がオープン。道の駅北側には、村営住宅と公園施設の整備が計画され、さらなる交流人口の増加が期待される。
 震災前の村を支えた基幹産業の再生には明るい兆しがあった。花卉(かき)栽培のほか、販売を目的にした稲作やサヤインゲンなど農作物の出荷が始まり、店頭に「飯舘村産」が並んだ。営農再開に向けた水田放牧の実証試験も行われ、牧草が生い茂った水田を牛が歩き回る光景も見られた。
 唯一の帰還困難区域の長泥地区もようやく、避難指示解除に向けた復興拠点整備計画案がまとまりつつあり、村内全域で復興への歩みが力強さを増す。
 一方、日用品や飲食店、クリーニング店が入る「共同店舗」の計画は採算が見通せず白紙になるなど、村内での事業再開には多くの課題が残っている。
 相馬福島道路の通行可能区間が延び、村を南相馬市と結ぶ県道原町川俣線の交通の難所には「八木沢トンネル」も18日に開通する。今春からは、約100人の子どもが村内に再開する認定こども園と小中一貫教育校に通学する。

 「とんやの郷」5万人来場

 【川俣・山木屋】川俣町山木屋地区では1日時点で129世帯291人が暮らす。昨年7月に開業した復興拠点商業施設「とんやの郷」は浪江町と同地区を結ぶ国道114号の再開通も後押しし、来場者数が5万人を突破。インフラ環境は整いつつある。
 一方、帰還した人口の6割に当たる180人は65歳以上の高齢者。町による戸別訪問では、同地区での生活に満足しているものの、かつて当たり前のように行われていた住民同士の協力や共同作業が減り、不安を感じる住民は少なくない実態が確認されたという。
 来年3月に入居期限が迫る仮設住宅は新年度、入居世帯が激減する見通し。残された住民のケアも重要な課題。ただ今春、小中一貫教育校として学校が7年ぶりに同地区に戻る。住民は復興の担い手となる子どもの歓声を待ち望んでいる。

 学校や病院住環境向上

 【富岡】富岡町は昨年4月1日に一部地域の避難指示が解除されたが、町内居住者は1日現在で人口の約3.5%に当たる458人にとどまっている。ただ、富岡労基署など国の出先機関の再開が決まり、町内居住者の増加に拍車が掛かりそうだ。
 4月から小、中学校が富岡一中校舎を利用して再開するほか、双葉郡の2次救急医療を担う県ふたば医療センター付属病院が開院するなど、町内の生活環境は格段に向上する公算だ。
 帰還困難区域のうち、特定復興再生拠点区域となったJR夜ノ森駅を含む国道6号の西側を中心に除染やインフラ整備も動きだす。

 行政区ごとの活動復活

 【広野】広野町は7日現在、人口の83.2%に当たる4057人が帰還した。さらに3000人を超える廃炉・復興関連の作業員、双葉郡の避難者らが町内で暮らしており、町民と新しい住民との共生に向けた地域コミュニティーづくりが課題になっている。行政区ごとの活動も震災前に戻りつつあり、伝統の祭りの復活を通して絆を取り戻す動きが出てきている。
 今春、初の卒業生を輩出したふたば未来学園高では新校舎の建設が進み、来年4月には併設中も開校して中高一貫教育が始動する。町は同時期に幼保連携型認定こども園を整備、子育て環境を充実させる考えだ。

 待望の商業施設にめど

 【楢葉】楢葉町は15年9月に避難指示が解除されてから2年6カ月が経過し、町内に居住するのは2月末現在で人口の33.6%に当たる2390人になった。今月末で町民への仮設住宅と民間借り上げ住宅の無償提供が終わるため「帰還の節目」を迎え、町は意向調査から4月以降の人口が約3600人になると見込んでいる。
 小、中学校とこども園は昨年4月から町内で再開、2カ所で復興拠点の整備が加速している。町民の待望だった復興拠点の商業施設は当初より約2カ月遅れるものの、6月中~下旬には開業するめどが立ち、生活環境の改善が期待される。

 「コチョウラン」首都圏へ

 【葛尾】16年6月に居住制限、避難指示解除準備の両区域が解除された葛尾村。解除地域の帰還者数は1日現在で214人、帰還率は16.9%にとどまる。しかし地域復興の足場は整いつつある。
 特産の凍(し)み餅作りや畜産業が再開されたほか、雑貨店や食堂、田村医師会の協力で内科診療所も再開。農業復興に向け村は新たにコチョウラン栽培施設を開設し、首都圏などに今夏の出荷を目指す。
 新年度は小、中学校、幼稚園が村内で再開し、誘致したニット工場の操業も控えている。役場近くに建設中の復興交流館(仮称)は6月オープンを予定している。

 子育ての支援に力を注ぐ

 【川内】川内村は16年6月に東部に残っていた避難指示が解除され、避難区域がなくなって1年9カ月。仮設住宅と民間借り上げ住宅の入居期間も終わり、8割以上の住民が村での生活を再開した。若年層の人口減を深刻に受け止めた村は、少子高齢化の克服を最重要課題に位置付け、新年度に小、中学校の給食無料化や3歳未満を家庭で保育する世帯への支援金を始めるなど、子育て環境の向上に力を注ぐ。小中一貫教育の実現に向けた検討も進む見通しだ。
 20年の出荷を目指しワイン醸造用のブドウ栽培も本格化、畑を観光地にして交流人口を拡大する計画だ。

 避難解除4年8割帰還

 【田村・都路】田村市都路地区は避難指示解除から間もなく丸4年。解除地域の帰還者数は2月1日現在、230人で帰還率は80.1%。地区全体では86.9%。ただ高齢化による自然減などの影響で、市は「震災前の人口と比べると3分の2程度になっているのが実情」と説明する。
 市は産業や観光の振興などで人口減に歯止めをかけたい考えだ。キャンプ施設などとして利用されている「グリーンパーク都路」では昨年、ローラースポーツの交流イベントを開催。ホップ栽培を通したビール生産事業、ドローン(小型無人機)の研究場所としての活用が検討されている。