県南は今「こま犬」の聖地だという。神社に置かれた一対の石像、こま犬を訪ね歩くのが近年、全国的なブームで、中でも県南のこま犬たちは注目の的、各地から愛好者が訪れるのだとか。なぜ県南が? 話題の聖地を(車も使い)歩いた。
明治の石工・寅吉
矢吹町方面から県道44号(棚倉街道)を南へ。まず中島村を目指す。昔の面影を残すような落ち着いた街道を進むと、右手に石造りの鳥居が見えてきた。こぢんまりと清潔な感じの川田神社。その鳥居の両脇に、飛びかかるような姿の一対のこま犬がいた。確かに普通のこま犬とは違う。看板によると、このこま犬は1892(明治25)年奉納された浅川町の石工、小松寅吉の作という。
寅吉は44年、石川町の生まれ。飛びかかるような、こま犬のスタイルは寅吉独自のもので「飛(ひ)翔(しょう)獅子」と呼ばれ、今も県南の数カ所に残る。
この近くだと、川田神社の像より後に彫られた飛翔獅子が、約5キロ南東の白河市の旧小野田村地域にあるというので、次はそこを目指す。阿武隈川を越え白河市に入ってすぐに左折し、浅川方面へ。のんびりした田園地帯を進むと、左手に「村社鹿島神社」があった。
参道の石段を上りながら見上げると、見下ろす2頭の飛翔獅子と目が合った。力強い視線に吸い寄せられていくと、結構でかい。正面の横幅は1.5メートルほど。燃え盛る炎のようなたてがみとともに、見開かれた瞳の力に心をつかまれた。この異形のこま犬は1903年、寅吉59歳の作。彼の最後の飛翔獅子という。なるほど、これを一目見ようと全国から人々が訪れるのか!
ルネサンス風、全国的に注目
神社隣の神宮寺で、高久真隆名誉住職(77)に話を聞いた。県南地方狛犬(こまいぬ)ネットワークの会員でもある住職は「こま犬は全国的に座った姿勢の蹲踞(そんきょ)型がほとんど。跳びはねる像はないようだ」と、寅吉の像の特異性を説明する。
確かに嵐の中で波打つようなたてがみは、まるでルネサンスの彫刻。これを見てある人は、寅吉を「東北のミケランジェロ」と呼んだというが、なるほどだ。
だが、なぜ県南にアーティスト気質の石工が現れたのか。高久住職は「江戸時代、この辺りは領主の城から遠かった。そんな環境から自由な空気が生まれ、こま犬も斬新なデザインになったのでは」と推測する。いずれにせよ、県南のこま犬がアートとして、全国の注目を集めているのは確かだった。発見である。
さて、この後は約2キロ西にある第三セクターの天然温泉施設「きつねうち温泉」で一休みした。図書館が同じ建物内にあり、周りには運動公園やキャンプ場などもある。取材班は、日帰り客でにぎわう食堂で日替わりランチのかけうどん(800円)を注文。かき揚げといなりずしが付き、少し得した気分になった。
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きつねうち温泉の入浴料は大人800円、小学生以下600円(午後5時以降は250円引き)。火曜定休。問い合わせは同施設(電話0248・34・1126)へ。
