【働き方変革】制度が変えた1時間の差...バス事業者、苦渋の決断

 
今月からダイヤが再編された新常磐交通のバス。ドライバー不足と2024年問題で苦渋の決断を迫られた=いわき市・JRいわき駅

 生活交通、守る努力限界

 「運転手がいないのは分かっているが、何とか元に戻してもらえないだろうか」。今月、路線バスの運行を大幅に減らすダイヤ再編を行った新常磐交通(いわき市)に、子どもが新学期を迎えた保護者から電話があった。平日は昨年度までの133系統を76系統に減らし、土、日曜日、祝日はさらに減便。通学のために新たに乗り継ぎを行う必要が生じるなど学生たちへの影響は大きいが、恒常的なドライバー不足を抱える同社にとっても、時間外労働への上限規制が導入される「2024年問題」が追い打ちをかける中での苦渋の決断だった。

 同社によると、2024年問題の規制の中で最も影響が大きかったのは、退勤してから次に出勤するまで最低9時間の間隔を空けなければならないという制度だった。昨年度までは8時間空ければ良かった。「この1時間の変化は大変な重みがあった」。門馬誠常務(73)はそう語る。

 通学・通勤のための路線バスを運転するドライバーは朝早く出勤する。少ない人員で朝のピークに対応しながら9時間の間隔を空けるためには、夜の運行を減らす必要があった。門馬常務は「今、午後8時以降はほとんどバスは走っていないと思っていい。夜に仕事から帰宅する人などに迷惑をかけている」と現状を明かす。

 同社のドライバーは現在136人。高齢化が進み、新たにドライバーになってくれる人に50万円の支度金を用意するなど会社独自の人材確保策も講じているが、特効薬にはなっていない。

 収益の大きい高速バスや貸し切りバスのドライバーも路線バスに振り向けて「生活交通」を守ってきたが、それも限界を迎え、ダイヤ再編を余儀なくされた。門馬常務は「労働時間の適正化には当然取り組まなくてはならない」と話した上で、こう続けた。「行政には同時に、業界のPRなど人的資源の確保に向けた取り組みも強めてほしい」

 未来見据え改善を

 交通経済などが専門の福島学院大の寺田一薫(かずしげ)教授(66)は「われわれが当たり前に感じている生活は、物流や交通の現場の長時間労働に支えられて成立してきた」と強調する。

 トラックやバスの運転手といった日本のドライバーについて、寺田教授は「働き方改革の中で労働時間の見直しが進まず、『置いてきぼり』にされていた業種」と分析。その上で「今回を機に労働環境が改善することで、将来的には担い手が増えることが期待できるのではないか」と指摘する。人手不足は喫緊の課題だが、業界の未来を見据えた取り組みとの両立が不可欠だ。