【福島県知事選・識者に聞く】東北大大学院准教授・河村和徳氏

 
投票判断の材料について「復興をどう頑張るのか。具体的なプロセスも聞かなければならない」と話す河村氏

 ◆「政策実現力」判断の鍵 投票率、陣営働き掛け左右

 ―今回の知事選では各陣営から投票率低下を懸念する声が相次ぐ。現状をどう見るか。

 「(与野党が特定の候補者を支援する)相乗り選挙の場合、知事選であっても20%台になる可能性がある。告示翌日から7日間の期日前投票者数は前回知事選の約1.6倍と好調な出足と言えるが、陣営関係者が期日前投票を選択している可能性が高く、最終的に投票率は伸び悩むのではないか。陣営の有権者への働き掛けが投票率を左右する。陣営が働き掛けを続けないと、過去最低を更新することになる」

 ―有権者の関心が高まらない要因は何か。

 「衆院選や参院選では有権者は政党で投票するケースが多い。一方、知事選など首長選は個人の資質と経済政策、地域活性化策などが投票判断に関わる。今回の知事選では候補者が復興を強調し過ぎていて、経済政策はどうなのという中通りや会津の人々の興味をそいでいるように見える。また、国政と地方を切り分けて投票する有権者が多い中で、安保や憲法を論戦に持ち込まれると、かえって投票率が下がることになる」

 ―有権者は候補者の訴えから何を見極め、投票判断の材料にすべきか。

 「候補者が自分たちの生活に結び付く話を具体的に言えているのかを考えてほしい。例えば、復興をどう頑張るのか。具体的なプロセスも聞かなければならない。夢を語るのは良いが、現実まで落とし込めていない政策があるかもしれない。政策を現実にできる力、自分たちの生活を良くしてくれる力があるのかも考えたい」

 ◆「投票の習慣」若者に 土日は親子で一緒に

 ―今回の知事選は、移動式期日前投票所の設置や大規模商業店舗内への期日前投票所の設置など、投票率向上に向けた市町村選管の取り組みが見られる。

 「2016(平成28)年の参院選から市町村選管の取り組みにお金が出るようになったことが大きいし、主権者教育がスタートしたこともある。若者らの投票に対する義務感はすぐには育たないが、移動式期日前投票所やスーパーマーケットに期日前投票所を置くことで短期的な成果が出る。期日前投票所を移動させる方式は、西日本の自治体で積極的に取り組まれてきた。ただ、福島県の場合、震災、原発事故後、双葉郡の町村が避難先の自治体で実施した経過があり、下地があったように思える」

 ―「18歳選挙権」導入後初の知事選で、若者の政治参加も焦点だ。

 「若者の投票率を上げるためには家族や陣営関係者からの働き掛けが大切だ。投票所に行く習慣を身に付けなければならない。18、19歳の場合、親が平日に期日前投票に行くと、子どもの投票率を押し下げる傾向がある。土、日曜日に一緒に子どもと足を運び、投票してほしい。若者が投票を習慣化する一つのタイミングになる。若者の投票率向上は主権者教育の内容ではなく、地域や家庭での会話、働き掛けが何よりも重要になる」

 ◆正解のない社会考えて

 ―現在、教育現場で行われている主権者教育に問題点があるのか。

 「主権者教育は学校の教育が基本ではない。日々の生活に課題があり、その課題を親や周辺の人々と話し、投票所に行くことを経験しながら学ぶことが主権者教育だ。『地方自治は民主主義の学校だ』という有名な言葉もある。机上の主権者教育では、投票のやり方だけを教えてしまう。机上の学びではなく、実践の中で政治や主権者の在り方を家族などと一緒に学ぶべきだ。震災、原発事故から復興に向かう福島県は主権者教育にとって最高のフィールドであり、正解のない社会のあるべき姿を考える力を養う体験型の取り組みが求められる」

 かわむら・かずのり 静岡県焼津市出身。慶大大学院法学研究科政治学専攻博士課程を単位取得退学し、慶大法学部専任講師、金沢大法学部助教授を経て現職。総務省投票環境の向上方策等に関する研究会委員。専門は政治学。著書に「被災地から考える日本の選挙」(東北大学出版会)など。47歳。