【検証・県民健康調査】放射線の影響確認されず 生活習慣病は増加

 

 「東京電力福島第1原発事故直後、社会は非常に大きな混乱に陥り、放射線不安は県民にとって恐怖とさえ感じられた。調査が始まったのは、そのような中だった」。福島医大放射線医学県民健康管理センター長を務める神谷研二(70)は混乱を極めた当時の状況を振り返る。

 県民の不安を背景に始まった「県民健康管理調査(県民健康調査)」。県からの委託を受けたセンターが担い、調査結果は定期的に専門家で組織する検討委員会に報告された。検討委では、社会の関心の高さを受けて激しい議論が繰り広げられた。「当時は検討委員会が開催される度に全国に大きく報道された。委員会に合わせた会見では記者から厳しい指摘があったし、(記者とのやりとりの中で)怒号が飛び交う過熱した場面もあった」

 調査自体に対して、県民から厳しい目が向けられた。「『管理』という言葉に対し、どうも上から見られているような、実験台とされているような印象を持つ人が多いように思う」。2013(平成25)年の県議会。県議から県民の思いを代弁するような指摘があり、14年から「管理」をとって「県民健康調査」に名称を変更する出来事もあった。

 調査を続ける意義

 これまでの調査で、放射線による健康影響は確認されていない。その一方で、避難を余儀なくされたことなどによる生活環境の変化が健康にもたらした影響が指摘されている。調査項目の一つ、避難区域などの住民を対象にした健康診査では、肥満や高血圧、脂質異常、糖尿病などの生活習慣病が増えたことが分かった。

 センターは、こうした生活習慣病のリスクについて気を付けるべき点などを分析した市町村ごとの報告書を作成。調査結果に基づく支援活動を展開している。

 「甲状腺の問題や心の問題、生活習慣など、健康課題として残っているものはたくさんあり、道半ばだ」。神谷は調査を続ける意義を強調する。

 神谷は、調査で判明した知見について、情報発信が十分でないことに課題を感じている。19年から年1回、海外から専門家を招いて国際シンポジウムを開催しているのも、県民や海外に広く調査結果を発信したいとの考えからだ。「県民により分かりやすく伝えていかなければならない」と話す。

 「旧ソ連チェルノブイリ原発事故の再来ではないか」と、人々に強い不安を与えた原発事故の発生から間もなく丸10年。原発事故が県民の健康にもたらした影響の概要を明らかにした県民健康調査の成果を、どのように発信していくかが問われている。(文中敬称略)

 国際シンポジウム 福島医大放射線医学県民健康管理センターが2019年から毎年開いている。調査で得られた情報を県内外に広く伝えることが目的。海外の専門家も招き、甲状腺検査や心の健康など特に関心の高いテーマに焦点を当てており、2月にオンラインで開く第3回シンポジウムは県民健康調査の現状や今後の展望について議論する。参加者募集中。問い合わせは国際連携室(電話024・581・5455)へ。