【たぬきケーキ(上)】ひっそりと各地に生息

 
かつて佐久間パン店で販売していたたぬきケーキ。目の位置が個性的だ(たぬきケーキ研究家・松本よしふみさん提供)

 つぶらな瞳が印象的な、タヌキをかたどったチョコレートのケーキ。近頃インターネット界隈で話題の「たぬきケーキ」をご存じだろうか。今から30~40年前に全国各地の洋菓子店で作られ、当時子どもだった世代の人には懐かしいかもしれない。最近はその姿をあまり見掛けなくなってしまったが、今もひっそりと生き残るタヌキたちを追い掛けるマニアも多く、ひそかなブームになっている。県内での「生息状況」を調べてみた。

絶滅の危機直面

 まず「昔食べたことがある気がする」という家族のおぼろげな証言を頼りに、国見町の佐久間パン店へ向かった。

 オーナーの佐久間浩之さん(55)にたぬきケーキのことを尋ねると、なんと「さっきも同じことを聞かれたよ」との返事が。確実にたぬきケーキの波が来ていることを実感する。残念ながら現在は製造していなかったが、以前は佐久間さんの父勝雄さんが作っていたという。

 たぬきケーキは、スポンジ生地の土台に、バタークリームでできた頭がのり、全体をチョコレートでコーティングしている形が一般的だ。佐久間さんは「昭和50年代ごろは、たぬきケーキをはじめバタークリーム製のケーキが多かった」と振り返る。

 その後、生クリームが広く浸透し、バタークリームのケーキは売れなくなってしまったという。「生クリームでたぬきケーキを作ろうとしたけれど、生クリームは軟らかくて、頭の部分を作るのが難しかった」。タヌキの愛らしいフォルムは、硬さのあるバタークリームだからできるものだった。生クリームの人気が、たぬきケーキ絶滅の危機の一因かもしれない。

思い出の味は...

 一方で、最近たぬきケーキを作り始め、先日テレビ番組でも紹介され話題になった店がある。郡山市内の高校の購買や学校給食などでもなじみ深い、老舗の大友パン店だ。社長の吉田明弘さん(45)は、番組の放送直後は予想外の売れ行きで驚いたという。人気が続いているので、当面の間は作り続けたいと話す。

 郡山市出身の記者にとって大友パン店は、子どもの頃から最も足しげく通った店だ。ということは、幼い頃に食べたたぬきケーキはここの商品に違いない。そう期待して「以前は作っていましたよね?」と尋ねると「今回が初めてです。過去に作っていたという記録も記憶も残っていない。なのでレシピもなく、見よう見まねで作った」と意外な答えが...。

 私が子どもの頃に郡山市で食べたたぬきケーキはどこの商品だったのか。疑問を残しながら次回に続く。(佐藤香)