【福島県議選・有権者の視点】熱く訴える政策論争に無投票の壁

 

 秋晴れとなった告示日の10月31日。双葉郡選挙区(定数2)では、4年前と同じ候補者2人が1日だけの選挙戦を繰り広げた。新産業の創出や国際研究拠点の整備など双葉郡の将来像を熱く訴える両候補。ただ、その姿とは対照的に楢葉町の女性(77)は「4年前と同じ内容に聞こえた。被災地の今に寄り添っていない」と冷ややかだった。

 町の避難指示が解除され4年が過ぎた。町民の5割強に当たる約3900人が帰還したが、4割弱が65歳以上の高齢者。若い世代の多くは就職などで町外の避難先に生活拠点を移した。避難指示が解除された郡内のほかの町村も状況は同じ。「人材不足で介護サービスを受けられないお年寄りも多い。将来像を描くのも大事だが、まずは足元の課題に取り組んでほしい」と77歳女性。震災、原発事故から8年7カ月以上が過ぎ、住民が抱える課題は個別、複雑化しているだけに「もっと多様な政策を聞きたかった」と不満を漏らした。

 双葉郡と同じく原発事故の避難地域を抱える南相馬市・飯舘村選挙区(定数2)も再び無投票となった。「県議2人の8年間の結果が問われる機会が失われた。より緊張感を持って議員活動に臨んでほしい」。同市小高区の災害公営住宅で生活する男性(78)はくぎを刺した。

 「政治が身近にあるという実感を持ってもらい、復興を前に進めていく」と候補者の一人は街頭で声を上げた。78歳男性は「議員と有権者の対話が足りていないと感じている。もっと対話をして地元の声を県政に届けてほしい」と求めた。

 「選挙カーの姿は見なかったし(候補者の)声も聞こえなかった」。飯舘村の災害公営住宅で暮らす男性(79)は、1日で終わった県議選に「関心を持てなかった」と振り返る。運転免許を自主返納して村の巡回バスを使っているが、生活に不便さを感じている。「村が復興するためにも村を盛り上げる施策を講じてほしい」と注文を付けた。

 一方で、無投票再選を歓迎する声も聞こえた。避難指示解除とともに2017(平成29)年3月に浪江町に戻った男性(74)は「現状を分かっている人が継続して活動するのは被災地にとってプラスになる」と強調する。郡内には帰還困難区域が残り、原発の廃炉作業が続く。「双葉郡の復興には長い時間がかかる。復興の実現に向け(候補者は)決意を語っていた。ぜひ実現してほしい」と期待を込めた。