【会津若松市長選ルポ】見えにくい争点 4候補、支持基盤複雑

 
鶴ケ城近くに掲示されたポスター。コロナ後の経済回復などを巡り各候補の舌戦は熱を帯びている

 30日投開票の会津若松市長選は、いずれも無所属で立候補した新人で会社経営の長谷沼邦彦(56)、現職で4選を目指す室井照平(67)、新人で元市議会議長の目黒章三郎(71)、新人で元県議の水野さち子(61)の舌戦が熱を帯びている。新型コロナウイルス禍で疲弊した地域経済の回復などを巡り、市政の継続を訴える現職に変革を求める新人3人が挑む構図。ただ、際立った争点は見えにくく、各候補の足元では支持基盤が複雑に絡み合っている。

 「共に頑張りましょう」。午前中から30度を超える暑さとなった告示日の23日、汗を拭いながら出陣式に臨む支持者らの横を、別の候補の選挙カーが過ぎ去った。強い日差しが照り付ける中で始まった市長選は、序盤から白熱の様相だ。

 「あと4年の時間を与えていただきたい。住み続けたく、訪れたい、選ばれるまちを必ず実現する」。3期目をコロナ対応に追われた室井は出陣式で、道半ばにある政策の継続を訴えた。4年前と同じ地元・行仁地区に構えた事務所の壁や天井を、前回の倍近い約700枚の推薦状が埋める。自民の元県議らとの短期決戦だった前回と比べ「自民系の企業や団体からも早い段階で推薦状が届いた」と陣営幹部。「3期12年の実績への評価」と捉える。選対本部長の岸敏恵(53)は「コロナ禍でもまいてきた種を開かせたい」と訴える。

 「ただ一途(いちず)に、会津のために尽くします」。横断幕が目を引く目黒の事務所。まちづくりや環境団体の関係者らが出入りし、草の根運動を展開する。1月初旬にいち早く出馬を表明した目黒は「予算がないからできないという声を多く聞いてきた」と現市政を批判。市議6期24年、3度にわたり議長を務めた経験から「自主財源を増やし、民間の活力を生かすアイデアが(自分には)ある」と強調する。後援会応援団長の庄司裕(76)は「長年、一途にまちづくりや議会改革を進めてきた経験も人脈も、大きな強みになる」と語る。

 「この12年、地域経済の落ち込みは大変なものがある」。水野は第一声で切々と危機感を訴えた。「観光立国」の形成や医療充実などの公約を「1期4年で必ず形にする。実現できなければ辞める」と街頭で重ねる言葉に、現職への多選批判をにじませる。県議時代と参院選で広げた後援会の人脈を基に、唯一の女性候補として"刷新"をアピール。陣営は、新人7人が立候補した同日選の市議選も追い風と捉える。選対本部幹事長の小川伸幸(49)は「閉塞(へいそく)感を打開できる唯一の候補と訴え、支持を広げたい」と話す。

 新選組の隊服姿で第一声に臨んだ長谷沼は観光客の受け入れ増や人口減対策を訴えた。選対本部長を置かず、独自の戦いを展開する。

 各陣営「市民党」

 現職対新人の構図が鮮明に打ち出された選挙戦だが、各陣営とも「市民党」の立場を強調。政党色は影を潜め、地元選出国会議員のため書きは複数の事務所に張り出されている。水面下では一時、共に政治経験と知名度を持つ目黒、水野の一本化を模索する動きもあった中で、各陣営とも「それぞれの支持基盤が複雑に入り組んでおり、票が読みにくい選挙だ」とみる。今回、いずれの候補者からも一定の距離を置く財界人の一人は「コロナ後の会津を、誰に託すかを選択する重要な選挙だ」と評した。(文中敬称略)(報道部・渡辺美幸)