【県議選・ふくしまの課題】復興/「予算確保」...将来を左右

 

 「今は『空気』を運んでいることの方が多い」。客の姿がない終点の福島水素エネルギー研究フィールド前で、バス運転手の男性が苦笑した。

 2021年4月にバスの運行が始まった富岡―浪江線(34.5キロ)。福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想に基づく復興の拠点や生活圏を結ぶ。1日4往復を運行するが、22年の利用者数は1日平均2.5人だった。

 県は3月、避難地域12市町村を対象とする初の広域公共交通計画を策定した。市町村をまたぐ広域路線バスに重点を置き、富岡―浪江線を含む7系統を整備。住民帰還に加え、福島イノベ構想を支える重要な社会基盤と位置付けた。4月には福島国際研究教育機構(エフレイ)も浪江町に進出し、研究者や企業の集積が期待されている。バスの運行は「先行投資」(県幹部)の意味合いが強い。

 7系統の赤字額は年間2億円超。原発被災地の特例で国と県が赤字を全額補てんする。県の支出分も実質は国の交付税。復興予算なしに路線の維持は難しい。

 本年度に入り、県は政府に対し、第2期復興・創生期間(21~25年度)以降の財源確保を要望する場面が増えた。復興予算の7区分のうち、近年は「原子力災害からの復興・再生」が最多。国は第2期終了後の予算規模や期間を示しておらず、幅広い分野の関係者が焦りを募らせつつある。

 「鶏が先か、卵が先かの話。今は利用者が少ないとしても、復興には社会基盤の維持が不可欠だ」。7系統中4系統を担う新常磐交通(いわき市)常務の門馬誠(72)は強調する。業界が深刻な人手不足を抱える中、同社は路線バスを維持するために稼ぎ頭の高速・貸し切りバスを運休させる決断をした。事業者は「地域交通を守る使命感で立っている」(門馬)のが実情だ。

 全国知事会は7月、第2期後も「安心感を持って復興を進めるため必要な財源を確保」するよう政府に提言した。内容は県の意向を色濃く反映し、知事の内堀雅雄(59)は中長期的支援が必要だと迫った。

 県幹部の一人は「26年度以降の復興予算を決める国との議論は来年には本格化する。復興はまだ終わらず、事業一つ一つの重要性を訴えなければならない」と語る。「第2期後」が近づくとともに、本県復興の将来を占う重要局面に入っていく。(文中敬称略)

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 復興予算 国は復興期間の事業規模を示す「復興財源フレーム」を設定し、2025年度までの15年間で計32.9兆円を確保。実際は復興債の返済費などを含め22年度までに40兆円余りを執行した。年間予算は減少傾向にある一方、本県特有の課題を含む「原子力災害からの復興・再生」は比較的横ばいで推移する。政府は23年度税制改正大綱に「息の長い取り組みを支援できるよう確実に復興財源を確保する」と明記したが、26年度以降の枠組みは未定だ。