【県議選・ふくしまの課題】中小企業/物価高、戻らない人手

 
人手不足のため使っていない部屋を案内する若松さん

 夏合宿の学生や家族連れでにぎわういわき市のいわき湯本温泉の旅館「雨情の宿新つた」。新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5類に移行後、初めてとなる夏の宿泊者数は新型コロナ禍前に戻りつつある。ただ、女将(おかみ)の若松佐代子(65)は「もろ手を挙げて喜ぶことはできない」と嘆く。光熱費などの高騰や人手不足から、思うような営業ができていないからだ。

 新型コロナ禍で他業種に移った従業員を戻すことができておらず、55ある客室は最大でも35室ほどしか稼働できない。かき入れ時のお盆も、予約を止めざるを得なかった。それでも「おもてなしのために、やり方は変えたくない」と人材派遣を頼むなどして何とかやり繰りする。若松は「足を運んでくれるお客さまに今まで以上に感謝し、従業員が一つになって営業していきたい」と話す。

 新型コロナの5類移行で社会経済活動が活発化してきた県内だが、中小企業を取り巻く状況は依然として厳しい。特に大きな影響を与えているのが長引く物価高騰と人手不足だ。

 民間調査会社の東京商工リサーチ郡山支店によると、今年上半期の県内企業倒産件数(負債1000万円以上)は新型コロナの影響が大きかった前年同期を10件上回る40件だった。前年同期にはなかった飲食店と宿泊施設の倒産も計7件あり、同支店は「物価高騰でも価格転嫁ができず、売り上げは回復しても利益を出せない中小企業は多い」と指摘する。無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」の返済が本格化し、資金繰りに窮する事業者も出始めており、同支店は下半期も倒産件数は高止まりすると予想する。

 「募集をかけても人が来てくれない」。川俣町で建設会社を経営する菅野一弘(48)は、従業員確保に頭を悩ませる。ベテラン従業員の定年延長や技能実習生などを頼りにしのいでいるが、町内では後継者不在で廃業する同業者が出てきた。「人手不足が続けば、技術の継承などこれからのことも考えなくてはならなくなる」。福島労働局が公表する有効求人倍率は今年に入って1.40倍前後の高い水準が続く。新型コロナ禍からの経済回復は、人手不足にも拍車をかけている。(文中敬称略)

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 価格転嫁の状況 とうほう地域総合研究所が1月に実施した県内の景気動向調査によると、原材料価格の上昇などを販売価格に「転嫁した」「おおむね(5~9割未満)転嫁した」と答えた企業は5割にとどまった。価格転嫁できない理由では▽価格交渉が難しい▽他社との競合▽顧客離れの懸念―などが多くなっている。