【県議選・ふくしまの課題】防災・減災/災害に強い県づくり

 
防災士を活用した防災対策の在り方を提案する水野さん

 阿武隈川沿いに広がる玉川村の田んぼで太陽に向かって青々と育つイネが映える。そんな田園風景はあと数年で姿を変える。2019年の東日本台風を受け、阿武隈川上流で進む遊水地整備は28年度にも完了する見通しだ。災害が頻発、激甚化する中、県も「マイ避難」の推進に向けた取り組みなどを加速させており、行政と県民がそれぞれ主体となる「災害に強い県づくり」が進んでいる。

 前回県議選の告示を控えた19年10月。東日本で観測史上最大の大雨が降った。阿武隈川では県内の基準観測所の全てで最高水位を記録、流域の約3200ヘクタール、住宅1万戸以上が浸水した。こうした惨事を受け、国が打ち出したのが遊水地整備事業だ。鏡石、矢吹、玉川3町村の阿武隈川上流の約350ヘクタールを遊水地として整備し、洪水時に一時的に水をため込むことで下流側の水位を低下させ、被害を最小限にする効果がある。

 「ここがとりでとなれば流域全体は助かる」。計画区域の玉川村竜崎行政区で東日本台風当時に区長だった石井清勝(69)は、流域治水や遊水地の必要性に理解を示す一方、農家が抱える悩みを明かす。

 計画地では、工事が始まるまで数年は現在の農地で営農ができるが、その後は新たな土地に移る必要がある。土づくりを考慮すると早期の準備が必要だ。一方、物価高騰により用地補償分では賄えない支出が見込まれており、石井は「農家に(移転に伴う)不安は少なからずある」と代弁、十分な支援制度が必要とする。

 「全てを行政頼みにしている県民はいないだろうか」。防災活動に取り組む市民団体「須賀川市の防災を考える会」会長で防災士の水野栄(76)はこう感じる。河川改修をはじめ、ハザードマップの作成やマイ避難の推進など行政の防災・減災の関連事業を評価する一方、危険箇所の確認や日頃の備えなどで県民の防災意識に差があると考えるからだ。

 水野は、防災士を「身近な防災の専門家」と言い表す。防災士を軸に県内で活動が広がる自主防災組織と連携するなど、防災体制の再構築を提案し「行政と県民が協調することで誰もが安心できる地域はつくれるだろう」と展望する。

 多岐にわたる県政の課題をいかに速やかに解決へと導けるか。県民を代表し、県と両輪にもなる県議会の存在意義が問われている。(文中敬称略)=おわり

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 東日本台風 県の被害状況即報(昨年10月11日現在)によると、県内では40人が犠牲となった。住宅被害は全壊が1395棟、半壊が1万1800棟など。国、県、市町村は、河川の治水対策や沿川地域での減災対策などを盛り込んだ「阿武隈川緊急治水対策プロジェクト」を展開している。