【新まち食堂物語】みつわ食堂・いわき市 ずっと一緒、ふたりの味

 
「これからも変わらないおいしさを提供したい」と語る正博さん(左)と良江さん(石井裕貴撮影)

 いわき市小名浜の海に面した工場地帯には、化学品や化成肥料などを製造する多くの工場が立ち並ぶ。煙突からは昼夜を問わず煙が立ち上り、大型トラックが列をなして臨港道路を走る。この地でみつわ食堂は創業から60年以上変わらない味を守り、地域住民や工場の従業員の胃袋をつかんで離さない。



 看板「もつ野菜」

 平日の昼下がり、店は作業着姿の人や近所の常連客で混雑する。メニュー表にはラーメンなどの麺類から丼物、そして定食まで約40種類が並び、種類の多さに目移りするほどだ。中でも一番人気は「もつ野菜定食」。モツ、キャベツ、モヤシ、ニンジン、ニラなどをしょうゆベースのたれで炒める。シャキシャキした野菜と、2時間煮込んだやわらかいモツの組み合わせに、茶わんいっぱいに盛られたご飯をかきこむ客もいる。

 店主の石沢正博さん(61)と妻良江さん(62)が店を切り盛りする。二人は高校時代のバスケットボール部の同級生で、当時から交際を始め22歳で結婚。以来40年連れ添うおしどり夫婦だ。出前にも応じるこの店では良江さんが調理を担当し、正博さんが配達を行う。忙しい昼時には、医療事務として市内の病院に勤める長女美恵子さん(38)がホール業務を手伝う。

 店は1963年に、現在の店舗から北へ300メートルほど離れた場所で正博さんの父芳郎さんと母京子さんが創業した。両親からは「好きなほうに行っていいよ」と店を継ぐことは求められはしなかったが、食で人々を笑顔にする両親の姿に魅力を感じ、高校3年の時に店を継ぐことを決めた。卒業後、店の手伝いを始め、店の味を学んだ。

 メニューや味付けは親の代から変えていない。「ずっと変わらない味を楽しみにしてくれるお客さんのために、これからも変わらないおいしさを提供したい」と正博さん。「カレーもつ炒め定食」「たまねぎ抜き定食」など、常連客の要望に応えたメニューもそろえる。「長く接客していると、言われなくても『常連さんが嫌いな食材』を覚えられるようになった」と良江さんはうなずく。

 手術乗り越えて

 13年前、良江さんは脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)と診断された。あまりの痛みで歩くことすら困難だったが、手術がうまくいかなければ歩けなくなるリスクもあり、数年間は手術に踏み切れなかった。「もう店は続けられないんじゃないかと考えた」と二人は口をそろえる。家族や常連客の後押しで、良江さんが54歳の時に手術を受け、無事成功した。「また一緒に店をやれると涙が出た」と正博さんは目を潤ませる。

 築100年たった店舗の老朽化を理由に2年前、正博さんの生家を改装した現在の店舗に移った。場所は変わっても、常連客は変わらず来店してくれた。腰痛をかばって膝関節に負担がかかった良江さんは昨年、右膝の手術を受けた。「1カ月半の休業の間、再開を待ち望む常連さんが連日、様子を見に顔を出してくれてうれしかった」と良江さん。支えてくれたお客さんのために、夫婦はこれからも変わらない味を届ける。(木村一幾)

お店データ

みつわ食堂の地図

■住所 いわき市小名浜隼人217の4

■電話 0246・92・4746

■営業時間 午前11時~午後7時

■定休日 日曜日

■主なメニュー
▽もつ野菜定食=1100円
▽野菜炒め定食=1050円
▽かつ丼=1150円
▽カレーライス=900円
▽ラーメン=750円

もつ野菜定食 一番人気の「もつ野菜定食」(手前)。正博さんのたれへのこだわりが伝わる麺類も常連客が愛してやまないメニューだ

 名物日替わり総菜

 調理場近くのカウンターには、ポテトサラダやスパゲティサラダ、煮物などの総菜が日替わりで大皿に盛られる。先代の芳郎さん夫妻が家庭菜園をして、食べきれない野菜で作った総菜を提供したのが始まりだ。現在は良江さんがスーパーで特売品を仕入れて調理している。

日替わり総菜

          ◇

 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 新まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。