中国の学術誌に処理水の科学的情報掲載へ 福島医大、現地と共同

 

 福島医大放射線健康管理学講座と中国・上海の復旦大公共衛生学院は、東京電力福島第1原発で発生する処理水の海洋放出を巡る安全対策やモニタリング(監視)の結果などの科学的なデータを、中国国内の学術誌で発表する共同プロジェクトに乗り出す方針を固めた。2~3カ月後をめどに掲載を開始し、継続的に発信することで、中国国内に本県復興の正確な情報を伝えていく。

 福島医大放射線健康管理学講座の坪倉正治主任教授と復旦大公共衛生学院の姜●五(●=广の中に大)教授が3日、方針を確認。同大の流行病研究の第一人者である姜氏が編集長を務める中国の複数の学術誌を活用し処理水放出までの過程や原発事故後の放射線量の推移、食品の放射性物質検査の結果、被ばく線量推計などの実測値を共同研究の形で発表していく。

 姜氏ら復旦大の研究者4人は1~2日、第1原発や浜通りを訪れ、処理水関連設備を含む廃炉の進捗(しんちょく)や避難地域の復興状況を視察。3日は福島医大で日中合同シンポジウムに臨んだ。坪倉氏によると、姜氏らは廃炉の状況や処理水の安全対策、避難指示解除地域への住民帰還の動きなどについて「中国では全く伝わっていない。周りに知っている人がいない」と感想を述べた。その上で、姜氏から共同プロジェクトについて提案があったという。

 処理水放出開始後、中国政府は日本産水産物の禁輸措置を実施しているほか、中国からとみられる迷惑電話が相次ぐなどの影響があったが、坪倉氏によると、姜氏からはこれらを踏まえた上で「政府批判ではなく、事実を淡々と発表する。学術誌であれば中立性を保って伝えられる」との提案があったという。

 復旦大は中国国内でトップクラスの名門大学で「北の北京大、南の復旦大」とも呼ばれる。福島医大とは震災前から交流があり、震災後は被災地の視察や留学生の受け入れなどで連携を続けている。

 坪倉氏は、復興支援としてだけでなく「『科学的な事実は残すべきだ』という考えで、共同研究の提案があった」と取り組みの意義を強調し「一歩一歩進めていきたい」と話した。