「常磐もの」変わらず食べる、消費者は冷静「安全だと思う」

 
柴会長(右)からお薦めの魚介類の説明を聞く買い物客。県内外から県産魚介類を買い求める人が訪れた=24日正午、浪江町請戸・柴栄水産直売所

 東京電力福島第1原発から処理水の海洋放出が始まった24日、「常磐もの」と呼ばれる県産海産物が水揚げされた浜通りの漁港は活気づき、直売所やスーパーなどの小売店には新鮮な魚介類が並んだ。「おいしいから、買って食べることに変わりはない」と冷静な反応を示す消費者。風評による価格下落や取引縮小への懸念が漁業関係者らの間に交錯する中、新たな日常が始まった。

 相馬市の松川浦漁港には24日午前、漁を終えた漁船が次々と入港。隣接する相馬原釜地方卸売市場にはシラスやヒラメ、メバルなどが並び、競りが始まると、いつもと変わらない活気に包まれた。

 「きょう取れた生シラスだよ、おいしいよ。このヒラメもうまい、全部うまい」。福島第1原発に最も近い浪江町請戸の水産会社「柴栄水産」では、柴孝一会長(85)が店頭に立ち、自慢の請戸産の新鮮な魚介類を買い物客に売りさばいていた。

 千葉県から観光で訪れた女性(51)は「(処理水の海洋放出は)全く気にしていない。おいしいから食べる、ただそれだけのこと」と落ち着いた様子で話し、柴会長から食べ方を聞きながら、シラスやサワラの刺し身などを買い物かごいっぱいに購入した。

 柴会長は海洋放出について「どうしようもできないこと」と受け止めつつ「請戸の魚はナンバーワン。これからもおいしい魚を伝えていく」と前を向いた。

 相馬双葉漁協が運営する相馬市磯部の直売所では24日も「常磐もの」で定番のヒラメの刺し身、干しシラス、マダコなどがそろった。この時期は特に相馬名産のホッキ貝をお目当てに多くの人たちが足を運ぶ。

 「なるべく東北のものを食べたい」。仙台市から親子で訪れた伊藤政彦さん(37)は食へのこだわりを語る。「震災と原発事故の混乱を既に経験しているので、処理水の影響は気にしない。地元で働く人に少しでも貢献したい」と漁業関係者に思いを寄せた。

 「だって、おいしいから」「しっかり検査」

 本県沖で漁獲された魚介類は漁港に水揚げ後、放射性物質検査で安全性を確認した上で出荷されている。

 会津若松市のスーパーで買い物をしていた同市の看護師佐藤美奈子さん(62)は「(処理水に含まれる放射性物質)トリチウム濃度などをしっかり検査して基準を下回るなど客観的なデータが示されているので、他国と比較しても安全だと思う」と指摘した。その上で県産品の検査体制を踏まえ「厳しい基準をクリアしている県産品をあえて購入するようにしており『常磐もの』も買っている。それはこれからも変わらない」と語り、自分の消費行動が変わることはないとした。

 いわき市のスーパーを訪れた会社員佐々木遥斗(はると)さん(19)は処理水の海洋放出に関し「意識はしない」と語る。魚が好きで時間があれば料理もしており「(国などが)安全だと言っているので、大丈夫だと思う」との認識を示した。

 県産海産物について、郡山市の薄井和次さん(71)は「自分はこれまで通り食べるつもりだが、子どものいる女性などで心配になる人はいるのかもしれない」と推察。いわき市のスーパーに子どもと買い物に来ていた会社員鈴木仁美さん(37)は「国が安全だと言っており、大丈夫なのだろうなとも思うが(国などの測定結果を)チェックするほどではない。子どももいるので、買い物の時に少しは気になる」と印象を話した。