希望の『花』咲く!被災地で営農再開 起爆剤として花栽培に期待

 
「日本一の産地化を目指していく」と決意を語る高橋さん

 東京電力福島第1原発事故により避難指示が出された地域で、花の栽培が行われている。ほかの農産物に比べ、風評被害の影響を受けにくいとされ、地域の営農再開を進めていく起爆剤として期待される。生産者らは、それぞれの品種をふるさとの新たな産品にしようと意欲を見せている。

 輸入品に負けない

 【川俣・アンスリウム】川俣町で栽培が進む南米原産の花アンスリウム。栽培農家11軒でつくる「ポリエステル媒地活用推進組合」が日本一の産地化を目指して生産に汗を流している。

 「『アンスリウムと言えば川俣』と言われるように今は無我夢中だよ」。2015(平成27)年に近畿大の支援を受けて試験栽培を始めた組合員の高橋佑吉さん(80)が、作業の手を休めて熱く語った。

 アンスリウムは、東京電力福島第1原発事故による風評被害を受けにくいなどの理由で栽培が始まった。土ではなく古着をリサイクルしたポリエステル媒地を使うという、珍しい栽培方法で行われている。自動で水や肥料を与えるシステムも駆使、組合には30~80代の幅広い年齢層の生産者が所属している。

 昨年までに町内各地にハウスが整備されると、各農家が順次栽培をスタート。昨年夏には、組合員全体での初出荷も迎えた。国内で流通するアンスリウムは大半が輸入品。組合は年間50万本の生産を目標に掲げ、日本一の産地を目指す。

 高橋さんは「アンスリウムの認知度は上がっていく」と確信する。町内外のイベントや、同町山木屋の「とんやの郷」などでも積極的に販売し、5月にリニューアルオープンを迎える道の駅川俣でも店頭に並ぶ予定だ。

 通常は廃棄する葉っぱも出荷先が見つかり、高橋さんは「これからどうなるのか」と期待交じりに話す。「海外にも負けないアンスリウムを川俣で育ててみせる」。花言葉同様、"情熱"を新たに作業に戻った。

 市場で評価、品質証明

 【浪江・トルコギキョウ】東京電力福島第1原発事故による避難指示が2017(平成29)年3月に解除された浪江町。地元の農家らが町を花の産地にしていこうと、同年8月に浪江町花卉(かき)研究会を設立した。

 研究会は、風評被害の影響を受けにくい花の栽培を通して、町での営農再開が進むことを目指している。定期的に勉強会を開催して会員らが栽培技術を習得したり、市場の需要などの情報を共有したりしている。

 会長の川村博さん(64)は震災後に就農した。「町内に働く場がないと、帰還や移住は進まない。また、なりわいとして農業を復興させないといけなかった」。13年3月の避難区域再編後、いち早く農業を始めたが、作物から放射性物質が検出されたため、風評の少ない花に取り組むことにした。

 14年に「希望」の花言葉を持つトルコギキョウの栽培を始めた。「花の栽培の経験はなかったので、県の指導を受けながら試行錯誤してきた」。そのかいもあって、川村さんが栽培するトルコギキョウは市場で次第に高く評価されるようになった。
 「浪江で高品質のトルコギキョウを作れるのだということを証明できた。今後は、浪江で切り花の売上高1億円達成と産地化、将来は長野や熊本のような産地にしていくことが目標だ」。川村さんはそう力強く語る。

 増産へ「風評感じない」

 【葛尾・コチョウラン】葛尾村の農家らでつくる農業法人「かつらお胡蝶蘭(こちょうらん)合同会社」は2018(平成30)年1月から、同村でコチョウラン栽培を開始した。昨年度は約4万9000株を出荷。本年度は昨年度より増産を見込んでいる。同社の杉下博澄さん(39)は「安定生産に努め、産地としての信用を積み上げたい」と話す。

 コチョウランは祝い事や贈答用として需要がある。同社は台湾から苗を輸入し、屋内で通年栽培している。「未来に希望を抱く」思いを込め、商品名は「ホープホワイト」。「風評の影響は感じない」と杉下さん。出荷先は県内をはじめ首都圏や仙台市などで、取引先は徐々に増えている。

 当初は社員4人で事業を始めた。現在は、パート従業員を含め19人でコチョウランの生産販売に取り組んでいる。「雇用を創出することで、帰村や周辺地域との交流人口増につなげたい」と期待を込める。

 一方、課題は「認知度」。ほかの産地から商品が多く集まり、いわゆる「供給過多」になった場合、ホープホワイトの取引価格が下がる傾向にあるという。「葛尾のコチョウランを指名してもらえるよう情報発信していきたい」と意欲を燃やす。