12市町村、より輝ける古里目指して 3町村で復興拠点避難解除

 

 東京電力福島第1原発事故による帰還困難区域のうち、特定復興再生拠点区域(復興拠点)で避難指示が順次解除された。全町避難が唯一続いた双葉町の解除により、居住人口ゼロの自治体がなくなった。避難指示が出た12市町村では古里をより輝かせるための懸命な取り組みが活発化している。12市町村の今を伝える。

 空間放射線量が比較的高い帰還困難区域内で除染とインフラ整備が行われた復興拠点のうち葛尾、大熊、双葉の3町村で避難指示が解除され、再び人が住めるようになった。残る富岡、浪江、飯舘の3町村も来春ごろの避難指示解除を目指して準備を進めており、原則として立ち入りが制限された帰還困難区域の再生は新たな段階に移る。

 しかし、復興拠点から外れた地域では帰還への具体的な道筋は見えない。政府は住民の帰還意向を確認した上で個別に除染を進め、2020年代に避難指示を解除する方針を示した。地元は全域の除染を訴えており、政府と協議を続ける構えだ。

 自民、公明両党は政府に大熊、双葉両町の復興拠点外の一部で来年度に除染の先行着手を求めた。政府内にはインフラ整備を含めると両町の帰還開始が「早くて25~26年度になるのではないか」との見方がある。

 町内に役場機能戻る

 【双葉】8月30日にJR双葉駅を中心とした復興拠点の避難指示が解除され、町内で住民の居住が再開した。東京電力福島第1原発事故から11年5カ月余り続いた全町避難が解消され、復興は新たな段階に入った。

 駅前には町役場新庁舎が完成し、解除に先立つ同27日に開庁式が行われた。今月5日から新庁舎での業務が始まり、職員らが住民帰還や移住・定住の促進などの業務に取り組んでいる。

 旧大野小で起業支援

 【大熊】JR大野駅周辺の復興拠点で6月30日に避難指示が解除された。商店街や学校があった中心市街地の再生が本格始動した。

 復興拠点内では旧大野小校舎が起業支援拠点「大熊インキュベーションセンター」に生まれ変わり、既存施設の再利用が始まった。避難先の会津若松市に開校した義務教育学校「学び舎(や)ゆめの森」について、町は来夏の完成を目指して大川原地区に新校舎の建設を急いでいる。

 競技用の芝生を整備

 【田村・都路】路地区のグリーンパーク都路にはフライングディスク競技用の芝生が整備された。日本フライングディスク協会公認コースで、各種大会や特別支援学級などのレクリエーションの場として利用され、地域復興に向けにぎわいを創出している。

 地ビール会社のホップジャパンが同パークでクラフトビールの製造販売に取り組み、品質の高さが評価されている。今月下旬に飲食イベントを開く予定。

 営農施設の工事進む

 【南相馬・小高】市が小高区に整備を計画する「園芸団地地域営農支援施設」の2期工事が進んでいる。営農再開を後押しして住民の帰還促進につなげる狙いがある。

 ハウス43棟のうち1期分の5棟は既に稼働。市は2期で残りの38棟を建設し、来年度中の全面利用開始を予定している。キュウリやスナップエンドウの周年栽培の経営モデル確立を目指す。水稲の育苗も請け負い、農家の負担軽減を図る。

 待望12年ぶり海開き

 【楢葉】岩沢海水浴場で7月16日、東日本大震災後初の海開きが行われ、12年ぶりに海を愛する町民の歓声が砂浜に戻ってきた。津波で流された関連施設の工事終了を受け、再開を果たした。町内のハード面の復興は着実に成果を上げている。

 町内への移住定住を促進する拠点として「CODOU(コドウ)」が6月30日にオープンし、さらなる地域活性化に向けた取り組みが動き出している。

 3地区立ち入り緩和

 【浪江】復興拠点が整備されている室原、末森、津島の3地区の一部で今月1日、避難指示解除に向けた住民の準備宿泊が始まり、立ち入り規制が緩和された。

 町は6月、JR浪江駅周辺の再開発を目指し、建築家隈研吾さんらと連携したまちづくりの「グランドデザイン基本計画」をまとめた。2026年度までに駅前広場や商業施設、住宅などの整備を完了する方針で、中心市街地の再生に力を入れる。

 文化交流施設が開館

 【広野】4月に文化交流施設「ひろの未来館」が開館した。旧広野幼稚園の園舎を改修し、町ゆかりの文化人の資料や埋蔵文化財を集めた展示室、住民交流のためのホールなどを整備した。

 館内には、町内で活動している東大アイソトープ総合センターと、早大ふくしま広野未来創造リサーチセンターが拠点を構えた。町は、両大をはじめとする研究機関と連携した交流人口拡大と地域振興を目指す。

 夜の森の桜並木開放

 【富岡】夜の森地区を中心とした復興拠点で4月11日、避難指示解除に向けた住民の準備宿泊が始まった。準備宿泊に先立ち、県内屈指の桜の名所として知られる「夜の森の桜並木」が12年ぶりに全長2.2キロの区間で開放された。桜並木を核とした交流人口の拡大が期待される。

 農業再生の動きも進み、コメの乾燥調製貯蔵施設が月内に稼働する。復興拠点では初めてコメの試験栽培が行われている。

 村産ワインお披露目

 【川内】村が震災後に新たな特産品として開発を進めてきた村産ワインの販売が3月に始まった。7月には東京都内で「お披露目会」も開かれ、関係者が川内産ワインが多くの人に親しまれる名酒となることを願った。

 村は6月、新たな人口ビジョンとまち・ひと・しごと創生総合戦略を発表した。雇用創出などを進めて人口減少の速度を緩やかにし、2040年の人口を1800人とする目標を掲げた。

 村移住促進へ新拠点

 【飯舘】村役場に隣接するエコモデルハウス「までいな家」に7月、村内への移住・定住に向け、希望者を支援する「いいたて移住サポートセンター」が開所した。移住者による新規就農の動きが見られるなど、移住の促進と交流人口の拡大に期待がかかる。

 帰還困難区域の長泥地区に整備が進む復興拠点には「居住促進」「農の再生」の2ゾーンを計画しており、住民帰還に向けた準備宿泊が今月23日に始まる。

 キャンプ場営業再開

 【葛尾】野行(のゆき)地区の復興拠点で6月12日に避難指示が解除された。帰還困難区域に指定された地域で住民が再び暮らせるようになる初めての事例になった。

 村内の産業団地には村外から企業が進出。村は移住者らの受け入れに向け、村営住宅の整備に取り組んでいる。震災後に休止していたキャンプ場「もりもりランド・かつらお」が今月3日、約12年ぶりに営業を再開し、観光復興へ追い風となった。

 ライスセンター完成

 【川俣・山木屋】山木屋地区内に整備が進められてきた穀類乾燥調製施設「ライスセンター」が4月に完成した。本年産米の収穫に併せて稼働を開始する。

 施設は作付面積約60ヘクタール分のコメの乾燥調製に対応する能力がある。町によると、地区のコメの作付面積は2020年が32ヘクタール、21年が55ヘクタールと拡大し、営農再開の動きが広がりつつある。施設を核に農業振興や住民帰還の促進が期待されている。