【建物語】ブリティッシュヒルズ・天栄村 海の向こうへ心旅立つ

 
英国の荘園領主の館(マナーハウス)を中心に、12~18世紀の建築様式に基づいて建てられたブリティッシュヒルズ

 豊かな緑あふれる天栄村にある"パスポートのいらない英国"。羽鳥湖を過ぎて山々に囲まれた長い坂道を上ると、西洋風の城壁やずらりと並ぶユニオンジャックの国旗が視界に飛び込んでくる。

本物にこだわる

 ブリティッシュヒルズは1994(平成6)年、神田外語大や神田外語学院などを運営する佐野学園(東京都)が学生らの研修施設として建設した。施設名は直訳すると「英国の丘」。海外留学が今ほど一般的ではなかった当時、「日本にいながら海外を体験できる場を造ろう」との理念で複数の候補地から天栄村の山上を選び、英国を再現した。

 研修を受けた学生から評判が広まり、学外からも利用を希望する声が寄せられた。90年代後半からは一般向けの研修や宿泊事業に乗り出した。現在では最大で約300人が宿泊でき、まるで映画「ハリー・ポッター」シリーズの食堂のような「リフェクトリー」などの設備を一目見ようと観光客も訪れるようになった。

 施設は海抜約1000メートルの山の上に立つ。英北部スコットランドのハイランド地方に気候が似ていて、梅雨時期には霧が立ちこめ、冬場は白銀の世界が広がる。敷地面積は約24万平方メートルで、荘園領主の屋敷を参考にした城のような「マナーハウス」や伝統的な民家をイメージした宿泊棟8棟、兵士が詰める城塞(じょうさい)を基にした「バラック」など中世英国の様式を忠実に再現した建物が立ち並ぶ。国内でも珍しい中世様式の建物は、ドラマや映画のロケで使われたこともある。

 内装や家具も英国そのもの。内装の大半にはカシの木など英国から取り寄せた木材を使い、伝統家具を複製した棚などを配置する徹底ぶり。多くの木材を輸入した影響で、現地の新聞に「英国からカシの木がなくなった」と取り上げられるほどだったそうだ。

 「本物」へのこだわりは、サービスにも。館内のテレビでは英BBC放送が視聴できるほか、スタッフは原則、日本人同士でも英語で業務を行う。「元々は研修施設。要望がない限り英語で対応します」とスタッフの森重真奈美さん(26)。記者の「要望」で日本語で対応してもらったが、利用客には流暢(りゅうちょう)な英語で話し掛けていた。

 本場のイギリス英語を学んでもらおうと、海外スタッフは英国やオーストラリアなど英連邦出身で、外国語指導助手(ALT)などで指導経験がある人に限る。オーストラリア出身の広報リチェス・ソフィーさん(31)は「日本にいながら、英語で仕事ができるので働きやすい」と笑顔を見せる。

旅券不要が強み

 新型コロナウイルス禍のここ1年は「海外旅行に行けない分、気分だけでも味わいたい」と県内外の観光客から問い合わせが多く寄せられている。また、これまで海外を訪れていた学校から修学旅行先に選ばれるなど「パスポートいらず」の強みを生かしニーズに応える。感染症拡大後は、結婚式の代わりにウエディングドレスやスーツを着て写真を撮影する「フォトウエディング」の需要も増え始めた。森重さんは「国内で同じような施設はない。唯一無二のサービスを展開したい」と強調する。

 いにしえの英国を再現した施設は現代の「新しい生活様式」に対応し誘客の幅を広げる。英国の偉人にちなんだ名前が付けられた宿泊棟の中には「ニュートン」の名もある。天栄村の山深くから作用する"引力"は多くの人を引き付けてやまない。(秋山敬祐)

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 ブリティッシュヒルズ 12世紀ごろの様式を再現したマナーハウスをはじめ、英国人がデザインに携わった建物が並ぶ。20種類以上の紅茶などが楽しめるティールームや英国家庭料理を提供するレストラン、英国みやげを取り扱うショップもそろう。宿泊や語学研修のほか、ドラマ・映画の撮影や結婚式にも幅広く対応する。不定休。問い合わせは同施設(電話0248・85・1313)へ。

ブリティッシュヒルズの地図

NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜にコラボ企画 

 建物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。