癒やしの駅これからも 会津鉄道芦ノ牧温泉駅長・小林美智子さん<12>完

 
駅のホームに座る私とさくら。芦ノ牧温泉駅は「ネコが働く駅」として、癒やしの場所であり続けてほしい

 実は、2代目ネコ駅長「らぶ」の病気が分かった後、「ネコ駅長を広くPRするのは、らぶで終わりにしよう」と考えたことがある。

 イベント出演に、映画のPR。らぶは休む間もなくあちこちへ行った。「無理をさせたから病気になってしまったのではないか」。私はずっと後悔していた。この悲しみを繰り返さないためには「ネコは自然な姿で、駅にいるだけで良いじゃないか」と考えた。

 駅で一緒に働く息子にそれを伝えると意見がぶつかった。「(初代の)ばす、らぶが頑張ってきたのを、ここで終わらせていいの」。息子は疑問を口にし、「今まで通り続けよう」と譲らなかった。

 私はらぶに会うため、一人で郡山市の映画館へ「劇場版にゃん旅鉄道」を見に行った。スクリーンの中のらぶは、ばすの後を継いで立派な駅長になるため奮闘していた。それを見ていると、私の心境がだんだん変わっていった。ばす、らぶが頑張ってくれたおかげで、芦ノ牧温泉駅は「ネコが働く駅」として知られるようになった。それを無駄にできない、と素直に思えるようになった。

 らぶが永眠して5カ月。ばす、らぶに会おうと、今もたくさんの人が駅に来てくれる。手紙をもらうことも多い。先日、足が不自由だという高齢の女性から届いた手紙には「らぶが頑張る姿を見ていたら、私も頑張って自分の足で歩かなきゃいけない、と思った」と書かれていた。

 ばすもらぶも、駅長の仕事をしていない時は普通のネコだった。それが勇気を与えたり、心を癒やしたりしてきたのは、私が思っていた以上にすごいことなのではないか。2匹が天国に行った今だからこそ、そう思う。

 私は近いうちに、駅長を退こうと考えている。ネコ駅長も、いずれ3代目が誕生するだろう。新しい駅長には私やばす、らぶの思いを受け継いでほしい。「嫌なこと、つらいことがあっても、ネコに会えば笑顔になれる」。芦ノ牧温泉駅が癒やしの場所であり続けることを願っている。(聞き手 高崎慎也)