【震災10年】避難解除半年 富岡町、駅から広がる活気
「駅再開の効果をいかに発揮できるか」。富岡町の帰還困難区域のうち、特定復興再生拠点区域(復興拠点)の一部先行解除に伴い再開したJR常磐線夜ノ森駅。2023年春の復興拠点全体の避難指示解除を見据え、町や関係機関は駅を起点ににぎわい創出の土台を築こうと模索する。
8月下旬の日曜日。駅に降り立つ乗客の姿はほぼなく、駅周辺の人影もまばらだ。新型コロナウイルス感染拡大の影響も駅の利用促進に影を落とすが、駅の近くに住む70代女性は「そもそも観光資源に乏しく、震災前の利用者の大半は学生だった」と振り返る。
JR東日本によると、震災前の10年度の夜ノ森駅の利用者数は1日平均で359人。1日平均の利用者数を把握できる管内1068駅中、856番目と低位だった。町を代表する観光資源は、駅周辺に広がる夜の森地区の桜並木。2.2キロにわたり桜が咲き誇る光景が人気を呼び、震災前は開花期間中に駅などを利用して10万人以上が訪れた。しかし、散っていく花とともに、町内から観光客の姿は消えていった。
「移住や定住への関心を高めるためにも、桜並木にとどまらず駅から一足延ばしてもらう取り組みが必要だ」。震災から約8年半にわたる休止期間を経て、昨年10月に活動を再開した町観光協会。町の人口が1498人(9月1日現在)と震災前の約1割にとどまる中、協会の横須賀幸一事務局長(65)は、年間を通じて人を呼び込む観光戦略が活性化の鍵を握るとみる。
復興拠点の避難指示解除に向け、町は駅周辺に温泉を備えた健康増進施設の整備を計画し、駅から東に約3キロの場所には来夏の開館を目指して独自のアーカイブ施設(震災記録施設)の建設を進める。町民有志によるワイン用のブドウ栽培など、震災前にはなかった民間の取り組みも進む。
協会は、学びや体験をテーマに駅や町の新しい魅力をつなぐ周遊ルートの構築に着手した。横須賀事務局長は「震災から10年を迎える中、町に足を運んでもらうことが記憶の風化を防ぐ力にもなる。復興へ歩む物語性も打ち出し、関心を引き寄せるルートをつくりたい」と力を込める。
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