人不足"線量の壁" 上限超えベテラン離脱、健康管理重要

 

 東京電力福島第1原発で事故収束と廃炉に向けた作業に当たる作業員数は、1日約6000〜7000人。作業員の約6割は県民だ。同原発では、増加する汚染水への対策が続いているが、見通しは立っていないのが現状で、炉心溶融(メルトダウン)した燃料の取り出しも先行きは不透明となっている。廃炉作業は30〜40年と想定され、被ばく線量が多い傾向にある熟練作業員の確保が課題となる中、長期にわたる作業員の被ばく線量の把握など健康管理が重要性を増している。

 厚生労働省が定める作業員の被ばく線量限度は「年間で50ミリシーベルトかつ5年間で100ミリシーベルト」。空間線量が高かった事故直後に働いた熟練作業員たちは、被ばく線量が上限に達するなどして現場を去るケースが相次いでいる。

 佐藤雄平知事は1月、東電の広瀬直己社長に対し、作業員の被ばく線量など健康状態に関するデータを県と福島医大の県民健康調査に提供するよう要請した。同大と東電は近くデータ共有に関する協定を締結する見通しだ。

 同調査では、原発事故後4カ月間の外部被ばく線量を推計する基本調査を行っているが、それ以降の外部被ばく線量の把握は、線量計の配布など市町村ごとの取り組みに委ねられている。県は東電からデータ提供を受けることで「基本調査以降の外部被ばく線量を把握できるため、作業員の健康管理に役立てたい」としている。

 南相馬の協力企業「廃炉に貢献したいが...」

 「ウチは作業員の被ばく線量の限度を年間20ミリシーベルト未満にしている。それ以上の線量だと、他の原発から仕事をもらえない」。南相馬市のある協力企業の社長は、原発事故後の内情を打ち明ける。

 事故前から福島第1、第2原発を中心に、全国の原発でプラント点検を請け負ってきた。現在も福島第1原発に数人の作業員を送るが、高線量域での仕事は受注していない。他県の原発は、長期的に作業員を確保したいとの思惑から、累積被ばく線量の高い作業員を受け入れない傾向にあるという。同社で働く作業員男性は「(年間)20ミリシーベルトでも受け入れないところはある。自分の感覚では、14、15ミリシーベルトを超えたら厳しい」。社長は「ほとんどの協力企業が、社内的に累積被ばく線量の限度を厳しくしている」と話す。

 廃炉作業の中核を担う作業員は被ばく線量が多く、長期間は働けない。経験の蓄積は見込めず、慢性的な作業員不足を招く。廃炉作業の加速には、高線量の壁が付きまとう。「お世話になってきた分、福島第1(原発)の廃炉にもっと貢献したい思いはある。でも...」。社長の胸中は複雑だ。

 進まぬ"後継育成" 

 「線量が低下し、現場は落ち着いてきている。事故直後に比べれば、格段に仕事はしやすくなった」。双葉郡出身で、いわき市に避難し、同原発に勤務する東電関連企業の男性社員(44)は、作業環境を打ち明ける。

 全面マスクと防護服着用の区域が狭まり、「一般のマスク着用で構わない場所が多くなった」という。一方で、被ばく線量の限度を超え、現場を離れる作業員の多くは、同原発内部を知り尽くした熟練作業員。作業技術の継承が急がれるが、育成は進んでいないのが現状だ。

 双葉郡出身で別の関連企業の男性社員(37)は「原発作業は、一般の土木作業などよりもはるかに手当が高額。しかし、嫌でも線量を浴びる現場に、若手は特に来たがらない」と明かした。