遅れる用地造成 工期に影響、状況に応じて優先工事検討

 

 東京電力福島第1原発事故による避難者向けの復興公営住宅の整備が遅れている。県は、全ての復興公営住宅を2016(平成28)年度中に完成させる方針を示していたが、整備する4890戸のうち少なくとも1004戸の完成が17年度に遅れる見通しだ。用地造成が難航していることが主な要因で、避難者の生活再建への影響が懸念される。一方、仮設住宅は老朽化に加え、入居者の減少でコミュニティーづくりが課題となっている。高齢者が大半を占める入居者の生活支援の在り方が問われる。

 県によると、復興公営住宅の完成時期が17年度にずれ込むのは、いわき市の5団地計928戸と二本松市の2団地計76戸。このほか520戸の用地が決まっておらず、先行きが見通せない。整備が遅れる住宅の約9割が、いわき市に集中する。比較的広い土地を確保しやすい一方で、造成を進めていた水田などでは軟弱な地盤が見つかるなど、工期の遅れが避けられなくなった。整備する復興公営住宅4890戸のうち、完成しているのは1月30日現在で261戸。県は「早期に完成させるため、復旧工事など他の工事との優先順位を考えないといけない」と状況に応じて復興公営住宅の工事を優先的に進める可能性を示唆している。ただ、「地域ごとに事情が異なるため、対応するとなると整理すべき課題もある」として、今後議論を深める考えだ。

 早期完成に向けて、県は民間業者が整備した住宅の買い取りで整備を加速させる。また、入居者の集約が進む仮設住宅で1棟全てが空き室となった住宅を建設を請け負った業者に無償で貸し出し、新年度から作業員を受け入れる意向だ。

 郡山・八山田団地、将来の希望託す「入居」

 復興公営住宅で新たな生活をスタートさせた避難住民の中には、ようやく安定した生活への第一歩を踏み出し、将来に希望を見いだす人たちもいる。

 「年齢を考えると、地元には戻れそうもない。夫婦で、この復興公営住宅に落ち着き、生涯を歩んでいくことにした」

 県が復興公営住宅の第1号として郡山市富久山町に建設した八山田団地1号棟に昨年11月から住む双葉町の伊藤節夫さん(70)は、妻ミチ子さん(69)と人生の決断をして入居した。「楽しいこと、やりたいことを見つけ、新しい生活基盤をつくっていきたい」。約3年にわたる三春町のアパート暮らしから新天地で始めた生活に希望を託す。

 同団地には現在、双葉町民19世帯が暮らす。同団地管理人を務める伊藤さんは、住民同士のコミュニティーづくりに心を砕く。

 NPO法人「3・11被災者を支援するいわき連絡協議会」が月1回、団地内集会所で開くお茶会は、住民たちの貴重な交流の機会だ。回を重ねるごとに、参加者たちが打ち解け、話が弾むようになった。伊藤さんは「お茶会は雰囲気が良く、徐々に仲間づくりができてきている」と同NPOスタッフに感謝する。「長期間、団地で暮らすことを決めている人もおり、今後のコミュニティーづくりは大切。住民交流の機会を増やすことで、皆さんに親しい仲間ができるのを願っている」。伊藤さんは力を込めた。