古里を未来へ、力強く歩む 帰還困難区域...依然県土全域の2.4%

 

 東京電力福島第1原発事故による帰還困難区域のうち、特定復興再生拠点区域(復興拠点)では避難指示が全て解除され、地域再生に向けた動きが本格化している。避難指示が出た12市町村は地域ごとの課題に向き合いながら知恵を絞り、郷土を未来につなぐために力強い歩みを続けている。12市町村の今を見つめた。

 空間放射線量が比較的高く、立ち入りが原則として制限されている帰還困難区域は今なお7市町村に計337平方キロあり、県土全域の2.4%に当たる。住民が帰還意向を示していない土地や家屋の扱いが定まっていないままで、地元は具体的な方向性を早期に明示するよう政府に強く求めている。政府の対応が焦点だ。

 帰還困難区域のうち、政府が除染やインフラ整備を先行した復興拠点を巡っては、葛尾、大熊、双葉、浪江、富岡、飯舘の6町村の復興拠点(計27平方キロ)で今年5月までに、避難指示が解除された。地域に再び人が住めるようになり、復興は新たな局面に移った。

 政府は復興拠点から外れた地域も含め、希望者全員の帰還を2020年代に実現する方針を示している。自治体と合同で復興拠点外の住民意向調査を複数回行った上で、帰還を望む人の生活圏を「特定帰還居住区域」に設定し、除染やインフラ整備に着手する。大熊、双葉両町は特定帰還居住区域の第1弾となる計画を準備している。政府は計画を認定後、年内にも除染に入り、早ければ3年後に避難指示を解除する方針だ。

 園芸団地が全面稼働 

 【南相馬・小高】小高区で農業復興の起爆剤として期待される「小高園芸団地」が7月、全面稼働を始めた。市が整備し、JAふくしま未来が管理運営に当たっている。キュウリ栽培などを通し、稲作中心の農業から園芸作物へと転換を図りたい考えだ。

 ハウス43棟と野菜の集出荷機能を備える。キュウリ栽培の裏作ではスナップエンドウを育てる。研修生も受け入れ、栽培のノウハウを伝える計画だ。

 伸びる中山間発企業

 【田村・都路】都路地区では基幹産業の農業に加え、避難指示解除後に進出した地ビール工場「ホップジャパン」や植物工場「A―Plus(エープラス)」などの企業が地域に活力をもたらしている。

 エープラスは2020年12月稼働。完全閉鎖型の工場で生産されるレタスは大手コンビニに取引され、首都圏を中心に消費される。中山間地域発の企業ながら業績を伸ばし、地域経済の活性化に貢献している。

 学び舎ゆめの森開校 

 【大熊】教育施設「学び舎(や)ゆめの森」が4月、町役場がある大川原地区に開校した。12年ぶりに町内で学校教育が再開し、子どもたちの元気な姿が町に帰ってきた。

 資材不足の影響で新施設の工期が遅れたため、1学期は町内の公共施設で授業を行い、2学期から利用が始まった。「図書ひろば」を中心に放射状に教室や体育館などが設けられ、現在は認定こども園と義務教育学校に計31人が在籍している。

 住民交流へ「結ぶ会」

 【双葉】JR双葉駅西側の駅西住宅の住民を中心としたコミュニティー組織「双葉町結ぶ会」が7月に設立され、帰還者や移住者の交流が活発化。今月、初の交流行事「夏祭り」が実現した。

 町内への企業進出も進んだ。浅野撚糸(ねんし)(岐阜県安八町)の双葉事業所が4月、フレックスジャパン(長野県千曲市)の工房が7月に開所した。震災後初のコンビニも開店し、住民の生活利便性が一歩ずつ向上した。

 居住人口2000人上回る 

 【浪江】復興拠点の室原、末森、津島、大堀各地区の一部で3月31日、避難指示が解除された。4月には町の居住人口が震災後初めて2000人を上回り、町内のこども園、小中学校に通う子どもの数は100人を超えた。

 政府が「世界に冠たる創造的復興の中核拠点」と位置付けた福島国際研究教育機構(エフレイ)が町内で始動。JR浪江駅周辺の再整備と連動し、まちづくりが新たな段階に入った。

 夜の森避難指示解除

 【富岡】帰還困難区域のうち、JR夜ノ森駅が立地する夜の森地区を中心とした約3.9平方キロの復興拠点で4月1日、避難指示が解除された。夜の森地区にある県内有数の桜並木は、地域再生の節目を祝うかのように満開に咲き誇った。

 復興拠点から外れた小良ケ浜、深谷の両地区では道路や集会所などに設定された線的・点的な復興拠点の避難指示解除に向け、除染が進められている。

 スポーツで地域振興

 【楢葉】「ポニーリーグ NARAHA STADIUM」で6月に硬式野球「ポニーリーグ」のアジア太平洋地区大会が初めて開催された。8月には双葉郡で震災後初となる大相撲夏巡業の「楢葉場所」も行われるなど、スポーツを軸にしたソフト面の地域振興で成果が見えた。

 移住者と町民が交流する地域活動拠点施設「まざらっせ」が4月に完成し、コミュニティーの再構築も進む。

 日の出の美しさPR

 【広野】広野町は3月22日、「日本一美しい日の出の町」を宣言した。太平洋に面した全国300市区町村から7自治体を抽出し、快晴日数などで判断した。「東北に春を告げるまち」のキャッチフレーズに加え、日の出の美しさもPRしていく。

 JR広野駅東側の「広野駅東ニュータウン」宅地造成工事が完成し、駅の大規模改修が本年度から本格始動するなど、さらなる発展への光が見えてきた。

 国道114号、349号開通

 【川俣・山木屋】中通りと浜通りを結ぶ重要路線「ふくしま復興再生道路」として、県が整備を進めてきた町内の国道114号、国道349号が3月に完成し、全線開通した。

 両国道は人流や物流、医療を支える路線。工事で急カーブの解消や大型車両同士のすれ違いが可能となり、安全で円滑な交通の確保につながっている。国道114号沿いには商業施設や観光農園などがあり、交流人口の拡大にも期待がかかる。

 村制施行から100周年

 【葛尾】葛尾村は、村制施行から100周年を迎えた。6月に開催した記念事業の公演「能と狂言」では舞台上で幽玄の舞が繰り広げられ、節目を祝った。

 震災と原発事故の影響で休園していた村の森林公園「もりもりランド・かつらお」が4月、施設の利用を全面再開した。園内にはオートキャンプ場などが設けられており、村はアウトドアファンらによる交流人口の拡大を図っている。

 長泥に集会所を新設

 【飯舘】帰還困難区域の長泥地区に整備された復興拠点と、拠点外地域にある「長泥曲田(まがた)公園」の避難指示が5月1日に解除された。

 復興拠点内には集会所の「長泥コミュニティーセンター」が新設され、住民同士のつながりの再構築が期待されている。村は5年後の居住人口目標を約180人とするが、震災前の住民がどれだけ帰還するかは見通せない状況で、移住定住の促進が課題となっている。

 お試し居住施設運用

 【川内】村の移住・定住支援センターは、お試し居住用のトレーラーハウス「GEKKOU(月光)」の運用を7月から始めた。村内で物件探しをしたり、イベントに参加したりすることを考えている移住希望者の滞在先として活用する。

 いわき市に通じる国道399号の十文字工区バイパス開通で村を訪れる人の増加を踏まえ、村は自然豊かな環境を発信し、移住定住につなげたい考えだ。