大野病院後継「双葉の核」に 郡内新病院構想、29年度以降開院

 
原発事故に伴い休止している県立大野病院=大熊町

 県は、双葉郡に整備する新しい中核的な医療機関について、大熊町のJR大野駅近くにある現在の県立大野病院の建物を解体し、現地に建て替えた上で、2029年度以降の開院を目指している。病床数を大野病院(150床)を上回る250床程度まで増やし、診療科も内科や外科、救急科、人工透析など20診療科を設ける方針だ。

 新たな病院は「地域に密着し、連携の核となる病院」「地域の発展に貢献し、医療従事者に魅力のある病院」の二つを基本理念とする。双葉郡内だけでなく、浜通りや中通りの医療機関との連携、災害医療や原子力災害医療、新興感染症への対応などが想定されている。浪江町に設立された福島国際研究教育機構(エフレイ)の各研究分野との連携も視野に入れ、双葉郡の復興を後押しする役割を目指す。

 これまでの郡内での受療動向や地元の要望を反映させた形で、大野病院より大幅に増える見込みだ。このうち内科、外科、整形外科は開院当初から入院対応も念頭に置き、ほかの診療科は外来診療が基本となる。周産期や小児、精神医療といった診療科は、相馬地方やいわき市などの専門拠点医療機関と連携し、最適な診療体制の確保を図る。

 250床程度とする病床数は双葉郡で35年ごろに想定される人口(約3万2000人)などを基に算出した。帰還や移住の促進、復興施策の進展が見込まれているためだ。ただ、開院時は20年国勢調査の人口から入院需要をはじき出した結果、100床前後とした。開院後、病床の利用状況などを踏まえ、段階的に増床していく方向で検討する。

 県は本年度、建物内の病室の配置や必要な医療機材などを検討し、基本計画の策定に着手する。来年度には基本・実施設計を始め、26年度から造成や建築工事に入る考えだ。現在の大野病院の建物は24~25年度に解体を計画している。

 後継病院の在り方、議論を本格化

 県立大野病院は、救急医療体制の強化などを目的に、2011年4月に双葉厚生病院(双葉町)と統合する予定だった。しかし、直前に発生した東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の影響で両病院が休止したことを受け、統合を延期。事実上の凍結となり、最終的に今年7月に統合の取りやめが正式に決まった。

 大野病院と双葉厚生病院を巡っては、ともに原発事故で帰還困難区域となったが、避難指示が解除され、今後の取り扱いが焦点となった。双葉厚生病院に関し、双葉町は特定復興再生拠点区域(復興拠点)内の町有地にあるため、建物の取り壊しを要請。運営するJA福島厚生連は、町の意向や医療従事者の不足などから再開は困難だとして、取り壊す方針を示した。

 大野病院については、県と地元の町村長、医療機関が昨年8月、後継病院の在り方を検討する会議をつくり、議論を本格化させた。

 現地調査の結果、長期の休止などで建物の損傷が大きいことが判明した。免震構造ではないため、大規模改修には建て替えと同程度以上の費用がかかるとの試算もあり、県は病院の特性に合わせて建て替える方が効率的だと判断した経緯がある。

 長期休止、建て替え判断

 「早く大野病院に代わる新病院をつくってほしい」。富岡町の復興公営住宅で暮らす男性(78)は、切実な思いを訴える。

 男性は内臓の病を患い、定期的にいわき市の病院へ車で片道1時間以上かけて通院している。「病院は混んでおり、予約していても診療まで1~2時間は待つので大変だ。近くに良い病院ができれば暮らしやすくなるのに...」と語る。

 医療提供体制が十分に整っていないため、帰還に踏み出せない住民は少なくない。復興庁と県、各町村による住民意向調査で、帰還を判断する材料として「医療・介護」を挙げる割合は大きい結果を示している。

 人工透析を例に挙げると双葉郡内で受けられる医療機関はなく、患者が周辺の医療機関に通わざるを得ない状況が続いており、郡内での人工透析の実施を願う声は強い。

 医療を受けるための体制整備を求める人もいる。郡内に移り住んだ女性(52)は「医療機関に通う交通も十分ではないことが不安。将来的に通院するようになった場合を考えると、公共交通をしっかりと整えてほしい」と話し、地域医療を支える環境づくりも不可欠だとした。

 大熊町の吉田淳町長は「医療環境の充実は避難先にいる町民が帰還を判断する材料になるだけでなく、現在この地域に住む人々にとっても大きな安心につながる」と述べ、後継病院の早期整備を求めている。

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 県立大野病院 1951年、大熊町に開院。休止前は内科や外科、整形外科、小児科、眼科など9科目で診療を行っていた。病床数は150床。既存の建物は4階建てで、3階建ての別棟もある。2011年4月に双葉厚生病院(双葉町、休止中)と統合してJA福島厚生連が運営を引き継ぐ予定だった。