国の責任...判断変わるか 原発事故集団訴訟、最高裁4件で否定

 

 東京電力福島第1原発事故を巡り国や東電の責任を問う避難者集団訴訟が節目を迎えている。全国約30件の訴訟のうち、4件は昨年6月の最高裁判決で国の賠償責任を否定。後続訴訟2件で原告側が上告し、受理されれば最高裁が原発事故に関する国の責任を改めて判断する可能性がある。現状や今後の見通しを探る。

 3月までに5件の高裁判決

 国の賠償責任を認めなかった昨年6月の最高裁判決後、関連する後続訴訟で今年3月に仙台高裁、11月の名古屋高裁の両判決がともに最高裁判決と同様に、国の賠償責任を否定した。来年3月までに5件の高裁判決が控えており、今後の高裁判決が最高裁の判断を踏襲するのか、異なる判断を示すのかが注目される。

 一連の訴訟では▽2002年に公表された国の地震予測「長期評価」の信頼性▽福島第1原発に巨大津波が到来することを予見することができたか▽国が東電に対策を命じていれば、原発事故を防げたか―などを争点に全国の地裁、高裁で審理が続けられてきた。いずれも東電の賠償責任については認めている。

 昨年6月の最高裁判決は東電の責任を認める一方、長期評価の信頼性や津波の予見可能性について明確な判断を示さず「現実に発生した地震や津波は想定よりはるかに大規模で(東電に)仮に防潮堤を設置させても事故は防げなかった」などと結論付けて、国の責任を否定した。

 一方、今年3月の仙台高裁判決は長期評価の信頼性を認めた上で、国が東電に津波対策を命じなかったことに関し「重大な義務違反」と断じた。11月の名古屋高裁判決も長期評価の信頼性を認め、02年末時点で津波の到来は予見可能だったとした。ともに最高裁より一歩踏み込んだ判断を示したが、結論としては「国が適切な措置を東電に義務付けても、事故は避けられなかった可能性が高い」として国の責任を認めなかった。

 上告の受理にも影響か

 仙台高裁と名古屋高裁の両判決について、避難者らによる生業(なりわい)訴訟原告団の事務局長を務めるあぶくま法律事務所の渡辺純弁護士は「最高裁の呪縛を受けた判決。このままの判断を続けていいのか」と批判。長期評価の信頼性を認めたことから「最高裁の判断に合わせたが、最高裁の論理に説得力がないため、無理やりな形になったのだろう」と高裁の判断を推察した。

 高裁で国の責任を否定された2件の後続訴訟の原告側は上告している。渡辺弁護士は上告が受理された場合、「昨年6月の最高裁判決で先行訴訟4件について統一判断が示されたことと同様に、本年度末にかけて続く高裁判決の後続訴訟と合わせて、統一判断が再度示されるのではないか」と予想する。

 上告が受理される条件として「高裁判決で少なくとも1件は国の責任が認められる必要があるだろう」と指摘。高裁で判断が割れると、最高裁で再び判断する必要が出てくるためだという。「昨年6月の最高裁判決はおかしいとする世論の高まりも最高裁を動かすには不可欠だ」と強調した。

 公害訴訟や賠償などに詳しい大阪公立大の除本(よけもと)理史(まさふみ)教授(52)=環境政策論=は高裁判決の動向を念頭に「最高裁にとっても前例のない判断を迫られる」との見方を示す。除本氏によると、最高裁で判決が言い渡された後、再び最高裁で審理された公害訴訟は過去に例がないという。

 名古屋高裁訴訟「まだまだ闘っていく」

 11月の名古屋高裁。国の責任を認めない判決が言い渡されると、傍聴席の原告らは表情を曇らせた。

 伊達市から名古屋市に避難した岡本希さん(17)は審理の過程で意見陳述した。判決を受け「裁判官は目を見て話を聞いてくれたのに結局、国の責任は認めてくれなかった」と話した。

 岡本さんは、母早苗さん(45)ら家族6人で自主避難したが「原発事故のせいで人間関係が変わった。両親もピリピリして、人が嫌いになった」。慣れない土地での生活が続いたが、早苗さんや姉が法廷で闘う姿に「私も自分の思いを伝えたい」と意見陳述に臨んだ。判決で国の責任を問う訴えが退けられ「悔しいし、母に申し訳ない。まだまだ闘っていく」と前を向いた。

 「国の責任がないはずがない」。原告の一人で、いわき市から岐阜市に避難した松山要さん(53)は判決に憤った。

 原発事故当時、松山さんは妊娠中で、水戸市の病院で出産してから避難生活を始めた。「今まで生活に追われながら、子どもたちを犠牲にしながら闘ってきた。国の責任を認めさせるまで、負けるわけにはいかない」と語気を強めた。

原発事故を巡り国の賠償責任が問われた訴訟