「海産物の安心、壊れていない」 信頼感、風評被害抑えてる要因

 
海産物を買い求める来場者。「常磐もの」は県外からの人気も高い。バーベキューを楽しむ来場者も多く、処理水放出を気にする声は少なかった=2月24日、いわき市・いわき・ら・ら・ミュウ

 処理水の海洋放出開始から半年を迎えた2月24日午前6時。周囲が静寂に包まれる中、いわき市中央卸売市場には威勢のいいかけ声や鐘の音が響いた。「常磐ものは認知度が上がり、高値で取引される。東日本大震災直後のような風評はない」。競りに臨む水産関係者は口をそろえる。

 「震災後に築き上げた本県産海産物の『安心』は壊れていない」。卸売業「いわき魚類」の鈴木健寿社長(45)は本県産海産物に対する信頼感が、風評被害を抑えている要因の一つと考える。同社によると、全国からの応援や白身魚の需要増で「常磐もの」のヒラメは昨年9月以降、例年の1.5~2倍の価格で取引されている。現在も県外から問い合わせがあるという。鈴木社長は「震災の時は安心感が壊れ、味以前の問題だった。処理水の評価は廃炉が終わってできるもの。今は数字で見えている安全を担保にしていかなければならない」と語る。

 いわき市小名浜の観光施設「いわき・ら・ら・ミュウ」はこの日も、ビニール袋いっぱいに「常磐もの」を買い込んだ観光客やバーベキューを楽しむ親子連れなどでにぎわっていた。秋田県大館市から家族で初めて訪れた40代男性は「常磐ものは新鮮と聞いており、メヒカリを食べたい。安心できるものに偏見はない」と話した。

 「常磐もの」に対する信頼感は震災後、漁業者や水産関係者が改めて育て上げてきたものだ。取材を通して「処理水を不安に思う」という声がなかったのは、関係者が積み上げてきた努力の表れだろう。一方で「常磐もの」の漁獲量の確保を訴える声も耳にした。試験操業を終え、本格操業への移行期間のさなかに始まった処理水の海洋放出。「安全な海だから、安心して魚を味わうことができる」。本格操業の実現に向け、東京電力には漁業者の思いを胸に放出作業に当たってほしい。(本宮支局・斎藤優樹)