新たな双葉思い描く街「町存続には人が必要」

 
「これからの双葉には移り住んでくれる人の力が必要」と思いを語る高倉さん。JR双葉駅周辺では新しい町づくりが進む

 止まったままのものと、様変わりしたものと。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故でまちの姿が大きく変わった双葉町には、二つの空間が存在していた。

 「帰還困難区域につき通行止め」と書かれた看板に、人の往来を拒むバリケード、傾いたままの家屋―。2月下旬、町内を走る乗用車内で思わずつぶやいた。「(前回訪れた)2年前と変わっていない...」

 一方、JR双葉駅西口に着いて周囲を見渡すと、真新しい公営住宅「えきにし住宅」が広がっていた。2年前にはなかった光景だ。「6月ごろには新たに47戸が完成する。今住んでいる人は地元の人と"移り住んでくれた人"が半々かな」。生まれ育った中野地区を含む浜野行政区の区長を務める高倉伊助さん(68)はうれしそうな表情を見せる。

 駅西口を含む周辺は原発事故に伴い、特定復興再生拠点区域(復興拠点)となったが、2022年8月に避難指示が解除され、居住が可能になった。駅東口には7日に双葉郵便局が開局。飲食店やスーパーの開店計画があり、企業の立地も進む。

 震災後、家族と須賀川市に身を寄せた高倉さんは現在、月の半分ほどを町営住宅で暮らしている。「伊助さん!」。駅周辺を歩いていると、行政区長として地域を見回るなど、人情に厚く面倒見の良い高倉さんを慕って、多くの住民が声をかけてきた。

 さらなるにぎわい創出が見込まれることに高倉さんは喜ぶ一方、複雑な思いも抱える。「故郷が元に戻らないことは分かっている。今を生きる俺たちがほしいのは"立派なハコモノ"ではなく、最低限の衣食住がそろう商業施設や学校なんだ」という。

 新たなまちを行き交う人たちを前に、高倉さんはこれからのまちのあるべき姿に思いをはせた。「町の存続には『人の力』が必要。だから移住して来る方をよそ者みたいに『移住者』とは呼びたくない。同じ仲間であり、町民なんだ」(県北支社・高橋由佳)