【陸上元五輪代表・為末大氏】 尊敬されるリーダーに 震災経験生かし人生での飛躍を

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「リーダーとなるトップアスリートを養成したい」と話す為末氏

 陸上男子400メートル障害日本記録保持者の為末大氏は7日までに、来春開校する中高一貫校・ふたば未来学園高を支援する「ふたばの教育復興応援団」メンバーとして取材に答えた。トップアスリート育成を目指す同校の教育については「世界から尊敬されるリーダーとなるトップアスリートを養成することが大事」と人格形成にも力を入れたスポーツ教育に意欲を示した。

 為末氏は東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の直後に現役選手として、海外メディアから被災地の被害状況などについて質問を受けた経験を明かし、「トップアスリートは必ず(世界中への)メッセージを求められる。自分はあの時、通り一辺倒のことしか言えなかったが、何かを代表して世界に出るアスリートはスポーツ外交を含めた大きな役割を持つことを、子どもたちに伝えていきたい」と話した。

 現在はスポーツキャスターなどとして活躍する為末氏は、震災、原発事故からの復興支援にも深く関わってきた。さまざまな経験と知見の中から、災害などで心に大きな傷を負った子どもがその後、飛躍的に成長する「心的外傷後成長(PTG)」について紹介。「バランスは難しいが、10年、20年後のスポーツ界のリーダーは福島から出てくると思っている。経験を生かすという表現は浅いかもしれないが、過去は変えられない中でこの経験を人生に生かし、飛躍してほしい」と話し、福島の子どもたちに向けて力強い成長を願うメッセージを送った。

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 【為末大氏インタビュー 聞き手:菅野篤編集局長】

 陸上世界選手権男子400メートル障害で2度の銅メダルを獲得した為末大氏は福島民友新聞社のインタビューで、「ふたばの教育復興応援団」の役割について「深い経験をしている人の話は重く、子どもたちも感じるものがあるのではないか。メンバーは自分の価値観、哲学の根源を子どもたちに凝縮して伝えると思うが、ふたば未来学園高の取り組みを県内、日本中に広げてほしい」と思いを語った。

 ―「ふたばの教育復興応援団」に参加した経緯は。応援団の結成を呼び掛けた小泉進次郎復興政務官とはどのような話を交わしたのか。
 「小泉政務官からは『ふたば未来学園高の取り組みを限定的ではなく、応用可能にし、次世代教育のモデルにしていきたい』という話をいただき、自分もスポーツを活用した教育の実現を目指していたので引き受けた。欧米各国ではスポーツ選手はリーダーだ。米国ハーバード大学の学生の何割かはスポーツ選手であり、ロシアでは市議会議員の何割かをスポーツ選手が占める地域もある。スポーツ選手がスポーツをやってきた過程で得た経験、チームを率いた経験で得たリーダーシップを発揮できる場所がないかと考えていた。個人的には、賢い選手、引退してもリーダーでいられる選手をどう育てるかということに興味があり、その育成をふたば未来学園高で実現させたい」

 ―ふたば未来学園高で行う具体的な授業は。世界の舞台で戦ってきた経験を子どもたちに伝えるのか。
 「僕が経験してきたことを言葉で伝えたい。スポーツの現場では選手が選択しがたい局面も出てくるが、そういうものに対し、子どもたちに自ら考えさせる授業をやりたい。例えば、新しいスポーツを創ろうと子どもたちに提案する。枠組みとしては運動場に三角形のグラウンドを作り、そのスポーツのルールは皆さんで創ってほしいと委ねる。ルールには必ず抜け道があるので、抜け道の存在が分かれば、その部分に新たなルールを加えることになる。このことは民主主義の成り立ちと一緒だ。ルールを作ることを学び、ルールを順守するという思いが芽生えると思う。スポーツを通じて人生に大事なものを伝えていきたい。また、リーダーになる感覚を教えたい。欧米型の周囲を引っ張るリーダーも大事だが、共感して寄り添うリーダーも大切で、自分も子どもたちと一緒に考える場にしたい」

 ―スポーツ社会学やスポーツ共生学、スポーツ健康学などを学び合う場として「為末大学」を開校しているが、目的は。
 「為末大学は、はじめは為末大が学ぶという言葉から始まった。現在は6歳から12歳までの子どもたちにランニングを教えることが主な活動だが、足を速くすることだけを強化しているわけではない。技術に加え、競技の経験を通じて自信を付けることを重要視している。活動の最後にプレゼンテーションの時間を設け、子どもたちがインタビューに答える。自分の考えをしっかりと言えることで自信が付くと思っている。日本のトップアスリートは高い技術を持っているが、競技を通して人間育成を図ることが必要だ。人づくりのスポーツを実践していきたい。スポーツをやってきて良かったと思える、自分の人生に頑張る気持ちができたと思える子どもを増やしていきたい」

 ―世界選手権で2度の銅メダルを獲得したが、実力を出し切る方法とは。世界の舞台で活躍するための心構えは。
 「中学生のころは100メートルで活躍したが、早熟型だったのか、高校生で伸び悩んだ。体形的にも身長が止まった。高校3年時に初めて世界ジュニアに400メートルで出場した経験が大きかった。世界に出るには選択肢が多くないことを知り、世界に出る手段として思いついたのは400メートル障害だった。(実力を出し切るために)大事なことは想像力が膨らむと崩れるということだ。具体的に言えば、アーチェリー競技で矢を射る場合に真ん中を射れば勝てる、外れたら負けるという場面で、外れたらどうなるんだろうと不安にならないことだ。勝負の結果、引き起こされることなど余計なことは想像してはいけない。未来のことを想像せず、今この瞬間でやれることをやる方が結果は必ず付いてくると思う」

 ―震災、原発事故後、本県で避難生活を送る子どもたちと何度も接してきたが、あらためて福島の子どもたちへのメッセージを。
 「震災発生から数カ月後に大熊町民が避難生活を送る会津若松市で大熊の子どもたちと会い、触れ合ったことが思い出される。僕のハードルの授業は、ハードルをとても高く設定する。転ぶ子どももたくさん出てくるが、転ぶと上手になる。自分がチャレンジしてできた体験は自信になる。自信が付けば最後に踏ん張ることができる。その自信が最後の自分のよりどころになることを多くの子どもたちに知ってほしい」

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 ためすえ・だい 広島市出身。法大経済学部卒。陸上男子400メートル障害日本記録保持者で、2001年エドモントン、05年ヘルシンキの世界選手権同種目で銅メダルを獲得。五輪はシドニー、アテネ、北京の3大会に出場した。12年に現役を引退。36歳。