【 福島市・野地温泉 】 峠の宿...乳白色の『極楽』 日常忘れる風景
標高約1200メートル。硫黄のにおいとともに白煙が立ち上る土湯峠温泉郷。信夫山を中心とした福島盆地を遠くに望む。福島市内を一望できる風景は日常の喧騒(けんそう)を一気に忘れさせてくれる。この場所に東北美湯の一つに数えられる宿がある。雲上で趣が異なる六つの湯殿めぐりを楽しめるお宿だ。
安達太良連峰と吾妻連峰の中間に位置する土湯峠近く。JR福島駅から車で約50分ほど離れた場所に向けてハンドルを握った。国道115号土湯トンネルの手前を旧道に入る。先人が山の斜面を切り開いた旧道をたどり、急峻(きゅうしゅん)な崖が印象的な鬼面山(きめんざん)沿いを通ると白い建物が見えてきた。
到着すると、女将(おかみ)の相模恵美子さんが柔和な笑顔で出迎えてくれた。「まずは」ということで、露天風呂「鬼面の湯」を紹介してくれた。脱衣所から出ると別世界。湯気が包む乳白色の温泉が目に飛び込んできた。
「はぁ~」。豊かな森に覆われた温泉に身を委ねると、その湯加減に思わず声が出てしまう。夏は新緑、秋は紅葉、冬は雪見。四季折々の顔を持つ。夜間はライトアップされ、幻想的な雰囲気に包まれる。
◆檜風呂宿の原点
野地温泉の歴史は明治初期から始まったとされる。「福島市と会津地方を結ぶ休憩所としてにぎわったようですよ」と女将。峠の湯治場として人気を集めたという。湯治客は7~10日ほど宿泊しながら、体を癒やしていた。女将は「お客さんは自炊しながら泊まっていたと聞いている。旅館は暖を取るための炭を配っていたようですよ」と話した。
当時から胃腸の名湯として知られており、温泉を飲んでいた時代もあった。麓の土湯温泉から馬で湯治客を送迎していた1945(昭和20)年ごろの写真も残っている。生まれ変わったのは44年前。「野地温泉ホテル」が誕生。湯治場からホテルに進化し、今に受け継がれてきた。
原点の檜(ひのき)風呂はファンが多い。「千寿の湯」は館内で最古の歴史を持つ。女将が説明してくれた。「これまで何度も改装してきたが、基本的な造りは昔と同じ」。かつての湯治客も感じたのだろうか。温泉につかると、檜の香りと硫黄のにおいが混ざった甘い香りが何とも心地よい。
温度が異なる三つの湯殿が並んでいる。浴槽の中はつながっており、温泉の流れから近い順にそれぞれ45度、42度、38~39度に保たれている。源泉は敷地内に二つ。2人の湯守が3時間おきに浴槽の温度をチェックし、源泉掛け流しの湯を守っている。
風呂場の窓からは手が届くようなところに源泉の湯気が見える。蒸気が勢いよく噴き出る。発見したのは誰だろうか。芯まで温まった体を拭きながら、温泉場の歴史に思いをはせた。温泉から上がってもなかなか冷めることなく、額から汗が出るほどだった。峠の湯の魅力は奥深かった。
【メモ】野地温泉ホテル=福島市土湯温泉町字野地1。日帰り入浴可。泉質は硫黄泉。
≫≫≫ ほっとひと息・湯のまちの愉しみ方 ≪≪≪
【森林浴楽しめる散策路】野地温泉の周辺にはブナの原生林があり、森林浴が楽しめる散策路「ブナッ子路(みち)」が整備されている。総延長距離は約1.7キロ。透き通った空気を味わいながら、1時間ほどかけてゆっくり歩くことができる。さまざまな高山植物を観察でき、秋には見事な紅葉も楽しめる。
〔写真〕ブナの原生林を楽しめる「ブナッ子路」
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