【 下郷町・湯野上温泉 】 大河の美...極上の時間 自然の音楽を堪能
国天然記念物の塔のへつり、岩の隙間から冷たい風が吹き出る中山風穴、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている大内宿。今シーズンは少雪だが、やはり南会津地方の冬は凍える寒さだ。下郷町が誇る風光明媚(めいび)な名所を楽しみながら、温泉で体を癒やそう。早速「湯野上温泉 塔泉閣(とうせんかく)」を訪れた。
阿賀川を横目に南会津町田島から国道121号を車で走る。約30分の道のり。道路の側溝から上がる白い湯気が、温泉に近づいたことを教えてくれる。阿賀川に架かる橋を渡り、短く急な坂を下るとひっそり佇(たたず)む塔泉閣に到着した。
体を温めようと足早に湯船へ。脱衣所から内風呂は男女で分かれているが、露天風呂は一つの浴槽が板で区切られ、男女各3畳ほどの半混浴となっている。
ふと目の前に広がる景色に息をのんだ。阿賀川と美しい曲線を描く渓谷。川のせせらぎや鳥のさえずりを背景音楽に極楽気分だ。
◆化粧水のように
源泉掛け流しのお湯は水素イオン指数(pH)8.3の単純温泉。無色透明で、肌にお湯が浸透するような感覚。「女性の利用客から『まるで化粧水のよう』と言われることもある」と代表の広瀬正治さん(66)が話してくれた。大正から昭和時代にかけて、岐阜県から仕事で下郷町を訪れていた祖父助治さんが湯野上の景色などにほれ込み、施設を開いたという。
「祖父や父が愛した温泉をできる限り守っていく」。妻行子さん(66)と切り盛りする正治さん。これまでの塔泉閣の露天風呂は約70段の階段を下り、河川のすぐそばにあった。しかし、大規模な運営が難しくなり現在の規模まで縮小、夫婦二人三脚で経営を維持している。旧来の露天は休止中とのこと。ぜひ一度、さらなる絶景を体感したいと再開をお願いした。
「自分の家に帰ってきた気持ちになる宿を心掛けている」と正治さん。温泉は10人以上で貸し切りとなり、利用者の要望に沿った宿泊プランを提案。東京の日本料理店で修業をしていた経歴を持ち、一手間加えた郷土料理などでもてなす。日帰り入浴ではお湯と景色を気兼ねなく楽しんでもらおうと一部時間制にして、唯一無二のアットホームな宿を目指している。
奈良時代に発見されたと伝わる湯野上温泉には伝説が残る。猟師が1匹の猿を射ったところ、手負いとなったその猿が湯の原(湯野上)で入浴し、その傷を癒やした。このことから源泉が猿湯と名付けられた―。"湯の神"が宿るとされる湯野上温泉には、多くの民宿や旅館が存在する。悠久の時を感じながら日ごろの疲れを癒やし、自分だけの湯野上を探す旅に出発してみてはいかがだろう。
【メモ】湯野上温泉 塔泉閣=下郷町湯野上字寄上乙1359の7。日帰り入浴は午後1時30分~同4時。大人500円、子ども200円。不定休。
≫≫≫ ほっとひと息・湯のまちの愉しみ方 ≪≪≪
【かやぶき屋根の駅舎が出迎え】国内でも珍しいかやぶき屋根の駅舎が旅人らを出迎える湯野上温泉駅。春にはホーム沿いの桜並木が花を咲かせ、冬は雪景色が楽しめる。撮影スポットとして人気があり、東北の駅百選に選定されている。源泉掛け流しの足湯が隣接してあり、多くの観光客が湯野上のお湯を楽しんでいる。待合室には囲炉裏(いろり)が置かれており、昭和レトロの雰囲気が漂う。売店では、うるち米を丸めて串に刺し、じゅうねんみそを塗って炭火で焼く下郷名物の「しんごろう」や地元野菜、鉄道グッズ、地元フランス料理店のガレットなどが購入できる。足湯は午前8時~午後7時。
〔写真〕昭和レトロの雰囲気が漂う待合室
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