【 西郷村・新甲子温泉 】 やわらか~く包む温泉 雄大な景色も魅力

 
開放感あふれる「鰍の湯」。こだわりの露天風呂で体の芯まで温まる

 肌を突き刺すような朝の空気と格闘する日々。足早に車に乗り込み、白河市から国道289号を下郷町方面に向かった。小雪が舞う中、車を走らせること約25分。「新甲子温泉」の看板を通過し、今回の目的地、五峰荘に到着した。

 新甲子温泉は日光国立公園北東端の甲子高原に位置する。960(昭和35)年に"白河地方の奥座敷"を目指し、温泉街の整備計画が動きだした。周辺は国有林のため、国への申請を経て整備が進められ、豊かな自然に囲まれた800メートルの高地に温泉街が誕生。五峰荘は67年に創業した。

 宿の入り口に向かうと、女将(おかみ)の有賀圭子さん(44)らが出迎えてくれた。ロビー正面の大きな窓ガラス越しには雄大な景色が広がる。春にはカタクリやイワカガミなどの山野草が花を咲かせ、夏には青々としたブナの原生林、秋は紅葉、冬には雪景色と年間を通して風景が楽しめる。

 有賀さんに温泉の特徴を尋ねると「やわらかくて優しく体が包まれるような温泉」と紹介してくれた。泉質は硫酸塩泉で水素イオン指数(pH)は7.2。敷地内の地下約1000メートルに約70度の源泉があり、加水を行わない100%源泉掛け流しの天然温泉だ。貯湯槽を経由し、湯量と外気温によって温度を42度前後に調整している。

 ◆黒鶏の卵を直送

 2階のロビーから1階にある浴場へ。毎日夜間の清掃後に男湯と女湯が入れ替わる「福寿の湯」と「美麗の湯」二つの浴場がある。それぞれ大浴場に加え、露天風呂が設置されており、美麗の湯には、2015(平成27)年に露天風呂「鰍(かじか)の湯」を新設。計三つの露天風呂では、豊かな自然と有賀悌三会長(81)が手入れした庭園に囲まれ、湯を楽しむことができる。

 大浴場を抜け、外の階段を下りると鰍の湯にたどり着く。有賀会長が鮫川石、鳥海石などの大石を買い付け自ら配置。浴槽には大理石、トルマリン石やラジウム鉱石が埋め込まれており、肩こりや血行促進に効果があるとされるこだわりの露天風呂だ。薄い茶色のお湯につかり、なめらかな肌触りの湯と、眼前に広がる景色で開放感を満喫した。

 食事は、地元食材をふんだんに使用している。地元産の野菜や酒をはじめ、コメは白河市産のコシヒカリ、朝食には同市の金山納豆を提供する。中でも好評の温泉卵は、有賀さんの実家の水野谷鶏卵店(中島村)で飼育されている「黒鶏」の卵を直送。深みのあるこくと甘みが特徴で、黄身は濃く鮮やかな色あいだ。予約制の温泉卵と生卵はお土産として販売されている。

 有賀会長によると、昭和40年代の新甲子温泉には、12軒の旅館があったが、時代とともに軒数は減り、現在は五峰荘を含め3軒。創業当初から運営に携わる有賀会長は「豊かな自然と温泉を守っていきたい」と語る。もてなしの心と熱い思い、そして、極上の湯にすっかりみせられ再訪を誓い旅館を後にした。

 【メモ】日光国立公園/新甲子温泉 五峰荘=西郷村真船字馬立1。日帰り入浴は午前11時~午後4時。宿泊状況によって変動あり。

西郷村・新甲子温泉

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 【土産、山野草が並ぶ軽食喫茶】紅葉の名所として知られる雪割橋(西郷村)のたもとに一軒の商店がたたずむ。土産販売、植物小売り、軽食喫茶の「カルミヤ」は約40年前から土産品のほか、山野草などの植物、陶器などを販売してきた。店内にはレトロな雰囲気を感じさせてくれる喫茶スペースもあり、コーヒーのほか、炭焼きの団子「雪割だんご」や山菜そばなどを提供している。窓からは雪割橋周辺の自然を眺めることができ、落ち着いた時間が流れる。店主滝沢正昭さん(69)、豊子さん(68)夫妻の温かさについつい長居をしてしまう。時間は午前9時~午後5時。

西郷村・新甲子温泉

〔写真〕レトロなカフェで温かく迎えてくれる滝沢さん(左)と豊子さん