【 福島市・土湯温泉(中) 】 山を味わい尽くす宿 木に込めた思い

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自然木の柵に囲まれ、四季折々の景色が楽しめる露天風呂

 旅館の扉を開けて、雪で真っ白になった木道を進むこと数十メートル、素朴な雰囲気の露天風呂にたどり着いた。すぐそばの源泉から、勢いよく蒸気が噴き上がっている。硫化水素のにおいが立ち込める。

 取材に訪れたのは4月11日。周囲は4月とは思えないほど雪が積もり、さながら水墨画の世界に入り込んだかのようだった。空気は澄んで、目前の鬼面山の稜線(りょうせん)がはっきりしている。風呂につかって、雄大な風景を何も考えずにただ眺めた。取材に来たのだということを忘れてしまうほどの、贅沢(ぜいたく)な時間だ。

 福島市土湯温泉町の相模屋(さがみや)旅館は、土湯温泉の中心部から車で約20分。標高1200メートルの「土湯峠温泉郷」にある。

 源泉をそのまま引いた温泉は、昔から胃腸、神経痛に効く名湯として知られている。味わい深い木製の湯船は「へりに腰掛けたとき冷たくないように」との心遣いの結果でもある。

 ◆「平成」静かに歩む

 平成元年に、山小屋風の以前の建物から、現在の鉄筋コンクリート4階建てに建て替えられた。間もなく平成は終わるが、旅館の相模龍明(たつあき)社長(62)は「バブル経済や秘湯ブーム。そういったものには乗らず、粛々とやってきたつもりだ」と旅館の歩みを振り返る。

 旅館内の所々には周囲の山の写真が飾られ、山での生活に関連する民具も展示されている。相模社長の父で創業者の八郎さん(92)は山を愛し、かつては宿泊客を案内するため山を歩き、県境を越えて行くほどだったという。

 秋は燃えるような紅葉が楽しめる。山の幸をふんだんに使った山菜料理も魅力の一つだ。

 旅館は県外からの宿泊客が多く、特に茨城県、千葉県からの宿泊客が目立つという。相模社長によると、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故は、県外からの宿泊客の割合をさらに高める結果をもたらした。

 以前は県内からは敬老会の団体客が訪れていて、特に多かったのが飯舘村のお年寄りたちだったという。「平日は30人規模の敬老会のお客さんがやって来て、週末は個人旅行のお客さんでにぎわうというパターンだった」。震災と原発事故を受けて村のお年寄りたちは村内外でみんな離れて暮らすようになり、全員が集まって旅行に行くのも難しくなった。「今はもう、県外の客が8~9割に上るかもしれない」。相模社長は少しさみしそうに語る。

 昨年吾妻山の噴火警戒レベルが2に引き上げられたことに伴い、近くにある磐梯吾妻スカイラインは10連休を間近に控えた今も通行止めが続く。だが、温泉の魅力に引かれて訪れる観光客は絶えない。相模社長は「ここでは湯船から朝日を拝むこともできる。お風呂からの雄大な眺めを楽しんでほしい」と魅力を語る。

 磐梯朝日国立公園内の峠の宿。「次は新緑の季節に訪れたい」。帰路、そびえる山々を眺めながらそう思った。

 【メモ】相模屋旅館=福島市土湯温泉町字野地2。泉質は硫黄泉。日帰り入浴可。大人(中学生以上)800円、子ども(小学生、幼児)400円。

福島市・土湯温泉(中)

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 【自分だけのこけし作れる】土湯温泉街で多彩なお土産品を扱っている「まつや」。店内には多彩なこけしが並ぶ。店主で土湯伝統こけし工人組合長の阿部国敏さん(46)は、こけしの全国コンクールで最高賞を受賞したこともある実力者だ。店内ではこけしの絵付けも体験できる。料金は950円(税込み)。営業時間は午前8時~午後6時。不定休。20、21の両日は、NPO法人土湯温泉観光協会が同温泉で「第44回土湯こけし祭り」を開催。各地のこけしが販売されているほか、「世界こけし美人コンテスト」などユニークなイベントが繰り広げられる。

福島市・土湯温泉(中)

〔写真〕お土産品やこけしが並ぶ「まつや」で、自作のこけしを手にする阿部さん