【まち食堂物語】かんのや・会津若松市 手作りの味をつないで

 
2代目の清水一郎さん(左)と3代目で長男の広太さん。初代勝三さんの思いを受け継ぎ、家族とスタッフで店を守る(吉田義広撮影)

 仕出し弁当原点

 原点は自宅の流し台にある。会津若松市の「かんのや」店主の清水一郎さん(60)の脳裏に焼き付いているのは小学生だった約50年前のある日の出来事。スーパーの総菜部門の責任者として働き、朝早くから夜遅くまで家を空けていた父が、その日は家にいた。話を聞くと「仕事を辞めてきた」という。そして手作りにこだわる父が自宅を使って仕出し弁当を始め、ここに「かんのや」が誕生した。

 父勝三さんがスーパーを辞めた理由は、外部から経営コンサルタントを入れて総菜の販売方法が変わることになったから。「手作りであることを大切にしていた父は、こだわりがないがしろにされたと感じて我慢できなかったんだと思うね」と清水さん。父は母豊子さんと一緒に弁当、仕出し弁当の店を始めた。

 当時は景気が良く、幸運にも店はすぐに軌道に乗った。開店から3、4年ほどで、借金して現在の3階建ての店を建てた。さらに数年後、清水さんが大学生の時に土地を買い増し、現在の駐車場を確保した。懸命に働く父母を見てきた清水さんが後を継ぐのは自然な流れだった。東京の大学に進む際にはすでに卒業後は家業に入ると決めていた。

 人気メニューは、オリジナルのソースでさっぱりとした風味に仕立てたソースカツ丼、東京・下北沢で働いていた時に覚えた米ナスのチーズ焼き、季節ものの3Lサイズのアスパラガスの天ぷら。そして店の看板となっているのが、趣味で始めて腕を磨いた手打ちそばだ。「10年前は店で出せるように一生懸命だった。今は自信を持って味わってもらっています」と笑みをこぼす。

 ところで「清水」家なのに、なぜ屋号が「かんのや」なのか。そこには勝三さんの隠れた思いがあったと清水さんは推測する。

 店を開く際の営業許可申請に屋号が必要だと分かり、勝三さんは「何でもいいや」と豊子さんの旧姓からとって「かんのや」と決めた。目まぐるしい環境変化と忙しさに任せて適当に付けたようにも聞こえるが、そうではない。清水さんは「45歳になって脱サラしたことは家族には青天の霹靂(へきれき)だった。屋号には母への感謝とか、一緒に頑張っていこうという決意があったんだと思うよ」とひも解き、他界した両親に思いをはせた。

 思い、次の世代に

 父の姿を見て自然と2代目の道を進んだ清水さんの思いは、しっかりと次の世代に伝わった。3代目となる長男の広太(こうだい)さん(30)は高校を卒業後、家業に入り清水さんと一緒に厨房(ちゅうぼう)に立っている。「小さい頃から仕事を見てきたから(店で働くことは)自然ですね」。広太さんが家業に入った理由は清水さんと同じく、親の背中を見てきたこと。「後継者不足」なんて言葉は、かんのやにはない。

 「じいちゃんの時代から店をしっかりやってきたのを見ている。自分の代でも残していかないと。そして会津に『かんのや』をずっと残していきたい」

 父の前で少し恥ずかしそうに思いを口にする広太さん。そしてそれを隣で見守る清水さん。お店が愛される理由がはっきり分かった。(阿部裕樹)

お店データ

かんのや清水家がつくった「かんのや」。温かい雰囲気の店では、ついついお客が長居するという

かんのやの地図

【住所】会津若松市行仁町4の11

【電話】0242・22・3904

【営業時間】
午前11時~午後2時ラストオーダー
夜は宴会予約のみの営業

【定休日】不定休

【主なメニュー】
▽手打ち蕎麦と天丼(アスパラ付き)セット=1300円
▽蕎麦&ソースかつ丼=1200円
▽蕎麦&米ナスチーズ焼き=1200円
▽蕎麦&ミニヒレカツ丼=1000円
▽ミニ天ざる蕎麦=1000円
▽とんかつ定食=850円
▽カキフライ定食=850円
▽鶏から揚げ定食=800円
▽ソースカツ丼=900円
▽煮込みカツ丼=900円

セットメニュー手打ちそばと、季節のアスパラガスを取り入れた天丼のセットが人気。手打ちそばとのセットメニューはソースカツ丼(左上)など多彩だ

 愛情注いだトマト

 清水さんは野菜作りに夢中。店とは離れた場所に畑を借り、無農薬かつ化学肥料を使わずに育てている。ナス、キュウリ、ジャガイモなどを植えており、特に愛情を注ぐのがトマト。仕事が終わると成長を見に行くほどの熱の入れようだ。大玉、中玉、ミニトマトとあるが、ミニトマトは色が異なる品種を育てていて「お客さんに5色のカラフルなミニトマトを食べてもらいたいんです」と収穫の時期を心待ちにしている。

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 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。